炎症(慢性炎症)は、がんの原因でもあり、がんを進行させる要因でもあるため、炎症を抑えることが、がんの治療にとって重要な戦略になります。今回は、オメガ3脂肪酸ががん患者さんの炎症を抑えるという最新の研究結果(ランダム化比較試験のメタ解析)を紹介します。
はじめに
がんと炎症(慢性炎症)の間には深い関係があります。
慢性の炎症によって、がんが発症すること、あるいは進行することがありますし、また、逆に、がんがあることによって、局所や全身に炎症が引き起こされることがあります。
つまり、炎症は、がんの原因でもあり、がんを進行させる要因でもあるのです。
したがって、がんにともなう「炎症」を抑えることが、がんの治療にとって重要な戦略になります。
がん細胞は、まわりの細胞(とくに炎症細胞と呼ばれる細胞)と共同で、炎症性サイトカインという物質を放出します。
代表的なものは、TNFやIL-6というもので、炎症がおこると、血液中の濃度が上昇します。検査でよく測定するCRPも、同じように、炎症のマーカーです。
さらに、これらの炎症性サイトカインは、がんの転移や浸潤をうながし、がんを進行させることがわかっています。
また、これらの炎症性サイトカインの数値が高いがん患者さんは、生存期間が短くなるという報告もあります。
ですので、炎症を抑えることは、がんの重要な治療戦略になるといえます。
炎症を抑える栄養成分とは?
では、炎症を抑えるためにはどうしたらいいか、ということですが、一つの方法として、食品や栄養成分があります。
つまり、炎症を抑える食べ物やサプリメントを摂取することです。
炎症を抑える食品として、多価不飽和脂肪酸のひとつ、オメガ3脂肪酸があります。
オメガ3脂肪酸にはαリノレン酸やEPA、DHA、DPAが含まれますが、アマニ、エゴマ、くるみ、あるいは、魚介類(フィッシュオイル)などに含まれています。
では、がん患者さんが実際にオメガ3脂肪酸を摂取すると、炎症が抑えられるのでしょうか?
最新の研究を紹介します。
がん患者の炎症を抑えるオメガ3不飽和脂肪酸
2022年3月にBritish Journal of Nutritionという雑誌に報告された論文です。
がん治療と併用してオメガ3脂肪酸を投与して、炎症の代表的マーカーであるIL-6とTNFを測定した過去のランダム化比較試験の結果をあつめて、メタ解析という手法で総合的に解析した研究です。
参考までに、このランダム化比較試験のメタ解析は、エビデンスレベルが最も高いとされています。
最終的に20件の研究が基準を満たしており、合計971人のがん患者さんについて解析しました。がんの種類は、食道がん、胃がん、大腸がんなど、さまざまでした。治療としては、抗がん剤や放射線治療など色々な治療が行われていました。
オメガ3脂肪酸は、カプセルまたは経腸栄養(オメガ3脂肪酸が含まれている栄養ドリンク)で投与していました。
結果は、オメガ3脂肪酸の投与によって、IL-6はおよそ50%低下して、TNFはおよそ30%低下していました。
この結果から、オメガ3脂肪酸の投与によって、がん患者さんの炎症が抑えられ、結果的に治療効果や予後の改善が期待できると結論づけています。
オメガ3不飽和脂肪酸が含まれる食品
オメガ3不飽和脂肪は、αリノレン酸、EPA、DHA、DPAに分類されますが、このうちαリノレン酸を含む食べ物といえば、くるみ、アマニ、エゴマなど、EPA、DHA、は魚介類に多く含まれています。
とくに、脂ののった青魚(たとえば、サバ、イワシ、アジ、サンマ、ブリ、サケ、マグロ、カツオなど)には、海洋性オメガ3脂肪酸が豊富に含まれていますので、積極的にとりたい食品です。
あるいは、より効率よく摂取できるオメガ3脂肪酸、フィッシュオイル、EPAやDHAのサプリメントを利用してもいいかもしれません。
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