乳がんの患者さんが増加しており、その原因のひとつに、日本人の食生活の変化の可能性が指摘されています。日本人を対象とした食事パターン(健康的、西洋型、伝統的和食)と乳がんとの関係を調査した研究結果を紹介します。
はじめに
日本では、年々、乳がんの患者さんが増えています。
乳がんのリスクを高める要因には様々なものがあるのですが、そのひとつとして、食生活(食事)も関係しているといわれています。
では、どういった食事をしていると、乳がんになりやすいのでしょうか?
ネットでは、「がんと食べもの」に関する色々な情報が飛び交っていて、何を信じていいのか分からなくなってきます。とくに最近、ある特定の食べものが「がんの原因」である、と断定するような極端な意見があります。
このように「何々ががんの原因である」と断定することで、恐怖心を煽ったり、注目を集めて、自分の唱える食事療法やクリニックへ誘導することが目的だと思います。
乳がんについても、パンや牛乳、チーズなどの乳製品、あるいは、大豆食品が悪いといった情報もあります。
こういった情報は、100%間違いではありませんが、科学的根拠に基づいた正しい情報とも言えません。たとえば、「パンと牛乳」を食べない人は乳がんにならないのか?というと、そんなわけはありません。
がんを予防するためには、「この食べものは絶対にダメ」、「この食べものを食べていれば大丈夫」ということではなく、ふだん摂っている食べもの全体のバランスを考える必要があります。
そこで、重要になってくるのが、食事パターンという考え方です。
たとえば、長寿の国や地方の代表的な食事のパターンに、地中会食や和食があります。
一方で、がんを含めて慢性疾患のリスクを高める食事に、西洋スタイルの食事があります。
では、乳がんになりやすい食事パターンというのはあるのでしょうか?
日本人を対象とした研究を紹介します。
乳がんのリスクを高める食事パターンとは?
2016年に Br J Nutr という雑誌に報告された論文です。
日本人女性49552人を対象とした、大規模なJPHCスタディという多目的コホート研究です。
食べもの・飲み物についての調査にもとづいて、普段の食事パターンを決定して、その後、乳がんの発症について平均で14.6年間、追跡した研究です。
食事のパターンは、健康的な食事パターン、西洋型食事パターン、そして、伝統的和食パターンの3つに分類しました。
どうやって分類するかというと、全部で147項目の食べもの・飲み物について、それぞれ、各食事パターンへ加算される点数が決まっていて、その合計点で決めるとのことです。
たとえば、米を食べる人では、和食パターンの点数が加算される、といった具合です。
健康的な食事パターンの人では、野菜、フルーツ、大豆食品、じゃがいも、海藻、マッシュルーム、および魚、の摂取が多くなっていました(健康に気を遣って、食べものにこだわっている人の食事ですね)。
西洋型食事パターンの人では、パン、肉、加工肉、乳製品、スープ、コーヒー、清涼飲料水、紅茶、ソース、マヨネーズ、およびドレッシング、の摂取が多くなっていました。
伝統的和食パターンの人では、サケ、魚以外のシーフード、脂ののった魚、赤身の魚、塩漬けの魚、鶏肉、および漬物、の摂取が多くなっていました。
この3つの食事パターンと、乳がんの発症リスクとの関係を調べました。
結果ですが、これらの食事パターンのうち、西洋型食事パターンは、乳がんの発症リスクの32%増加と関連していました。
とくに、西洋型の食事パターンがもっとも強い人では、乳がんのリスクが83%も増加していました。
また、ホルモン受容体の状態については、西洋型の食事パターンは、エストロゲンレセプター陽性・プロゲステロンレセプター陽性の乳がんのリスクが2.5倍にも上昇していました。
一方で、健康的な食事パターンおよび伝統的和食パターンでは、乳がんの発症リスクの上昇はみられませんでした。
以上の結果から、西洋型の食事パターンは、日本人における乳がん(とくに、ホルモン受容体陽性の乳がん)のリスク上昇と関連していたという結論です。
この研究では「西洋型の食事パターン」のグループでは、他のグループよりも、パン、肉、加工肉、乳製品、スープ、コーヒー、清涼飲料水、紅茶、ソース、マヨネーズ、およびドレッシング、を多く摂取していた人でした。
この結果からは、パンだけが悪いとか、肉だけが悪い、あるいは、乳製品だけが悪い、ということは言えません。
ただ、昔ながらの伝統的な和食に比べて、西洋から入ってきた食べものを日常的に摂取することで、乳がんのリスクが高くなる可能性はあると考えられます。
ですので、やはり、伝統的な和食の文化を見直すことが大切かもしれませんね。
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