がんと認知症、どちらも、年齢とともに増えてくる病気ですが、一見、まったく関係ないようにみえます。ところが、いくつかの研究では、意外な関係が明らかになってきました。それは、がん患者さんには認知症、アルツハイマー病が少ない、という関係です。
はじめに
がんと認知症、どちらも、年齢とともに増えてくる病気ですが、一見、まったく関係ないようにみえます。
ところが、いくつかの研究では、意外な関係が明らかになってきました。それは、がん患者さんには認知症が少ない、という関係です。
どちらかというと、がん患者さんには、心理的なストレスや治療の影響で、認知症が増えるという結果なら理解できますが、逆に、減るとなると意外な感じがします。
というわけで、今回は、がんと認知症との関係についての興味深い研究結果を紹介します。
がんと認知症の関係
Alzheimers Res Ther という雑誌に報告された論文です。
イギリスの国民データベース、UKバイオバンクに登録された26万人以上を対象とした大規模な観察研究です。
登録された人のうち、研究開始時に、がんと診断された人と、がんではない人のグループにおいて、平均で9年間の観察期間中に、認知症を発症した人を調べて、その頻度を、年齢や性別を調節して、比較しました。
その結果、がんにかかった人では、認知症が少なかったということで、発症リスクが11%も低下していました。
なかでも、認知症のタイプのなかでも、アルツハイマー型認知症が15%、血管性認知症が19%も低くなっていました。
がんの種類については、男性の生殖器系のがんで、認知症のリスクが大幅に減っていたということで、なかでも、前立腺がんの患者さんでは、約30%も認知症のリスクが低かったとのことです。
過去の複数の研究を総合的に解析したメタ解析でも、がん患者さんでは、認知症のリスクがおよそ10%低下していたということです。
がんの種類では、結腸がん、白血病、甲状腺がんなどで、認知症のリスクが減っていました。
がんホルモン療法と認知症
もう一つ、今度は、ホルモン療法を受けた乳がん患者における認知症などの神経変性疾患のリスクについての研究を紹介します。
2020年に、JAMA Netw Open という雑誌に報告された論文です。
30万人以上の乳がん患者さんのうち、タモキシフェンやアロマターゼ阻害剤などによるホルモン療法を受けた患者さんと、ホルモン療法以外の治療を受けた患者さんで、認知症やアルツハイマー病を含めた神経変性疾患との関係を調べました。
その結果、ホルモン療法を受けていた乳がん患者さんでは、認知症の発症リスクが12%減少しており、アルツハイマー病のリスクが18%減っていました。
一方で、他の研究では、前立腺がんに対して、長期にわたって、アンドロゲン除去療法(ホルモン療法)を受けている患者さんは、認知症のリスクが2倍に増えるという結果も報告されています。
これは、まさにホルモンの影響だと考えられます。では、なぜ、がんの人に認知症が少ないのでしょうか?
これは、まだ解明されていません。
ひとつの仮説としては、それぞれの病気における発症メカニズムの違いが関係しているということで、がんは、細胞が無限に増える病気ですが、一方で、認知症は、神経細胞が減る、あるいは死ぬことで発症します。
ですから、正反対の特徴があるということです。
もうひとつの理由は、治療の影響です。
先ほど紹介した研究のように、ホルモン療法によって、乳がん患者さんの認知症のリスクが低下することが示されています。
ただ、一方で、こういった関係は、観察研究のバイアス(グループ間のデータの偏り)ではないのかという反論もあります。たとえば、単純にがん患者さんが(認知症を発症する前に)早く亡くなるからリスクが減ったようにみえるだけ、という意見です。
とはいえ、色々な国における複数の研究においても、同じような負の関係ですね、つまり、がん患者・がんサバイバーでは認知症が少ないという関係が示されていることをみると、あながちバイアスだけの問題ではないような気がします。
というわけで、今回は、がんと認知症との意外な関係についてのお話でした。
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