先日の動画で、以前は菌がいないと思われていた「がん」の内部に、細菌が存在するという研究データを紹介しました。今回、この細菌が、がん細胞と一緒に遠くの臓器へ旅をして、転移を促進しているという驚くべき研究結果を紹介します。
はじめに
先日の動画で、以前は菌がいないと思われていた「がん」の内部に、細菌が存在するという研究データを紹介しました。
とくに、乳がんやすい臓がんでは、6割以上の患者さんで細菌が発見されたということです。
細菌は、おもにがん細胞の中に存在しているとのことですが、このがん内部の細菌は、いったい、何をしているのか?ということが気になります。
今回、じつは、この細菌が、がんの転移に関係している可能性があるという最新の研究を紹介します。
がん内部の細菌が転移を促進
今年2022年4月に Cell という非常にインパクトファクターが高い科学雑誌に報告された論文です。
この研究では、人の乳がんで細菌が多く発見されるということより、マウスの乳がんモデルを使って、実験をすすめました。
実際に、細菌の量を測定してみると、人と同じように、マウスの乳がんでも、正常の乳腺に比べて、細菌量が増えていることが確認されました。
また、細菌ががん組織のどこにいるかということですが、前回の人のがんでの研究結果と同じように、がん細胞内(細胞質という部位)に存在することが確認されました。
さらに、このがん細胞内の細菌は、生きていることもわかりました。
この乳がんモデルは、乳がんが成長して時間がたつと、肺に転移するわけですが、次に、抗生剤を使って、がん内部の細菌を除去した場合に、肺への転移がどうなるかを調べました。
その結果、がん内部の細菌を除去したマウスでは、乳がん自体の成長には影響しませんでしたが、肺への転移が明らかに減っていました。
つまり、細菌がいるほうが、転移しやすいというわけです。
では、なぜ細菌を除去したら、転移が減ったのかについて、さらにくわしいメカニズムを調べました。
がん細胞内に細菌が侵入すると、なぜ転移が増えるのか?
がんが転移するときに、がん細胞は血液の流れにのって、転移先の臓器に移動するわけですが、じつは、血液中には水圧のような機械的ストレスがあって、多くのがん細胞は、ストレスに耐えることができず、収縮して死んでしまうとのことです。
一方で、細菌が侵入したがん細胞は、細胞骨格がしっかりと再構築されるために、この血液中の機械的ストレスに耐えることができ、生存できるようになることがわかりました。
つまり、細菌が内部にいないがん細胞は、血液中を流れている途中で、ごく簡単に言うと「つぶれてしまって」死んでしまうことが多いわけですが、細菌が侵入したがん細胞は、「圧に耐えて」生きたまま肺に多く到達して、そこで育って、転移が大きくなると考えられます。
最後に、実際の患者さんから乳がん組織とリンパ節転移を採取して、細菌量や細菌の構成などを調べたところ、マウスでの実験と同様に、乳がん、リンパ節転移ともに細菌の量が増えていました。
また、乳がんの内部の細菌と、リンパ節転移の内部の細菌の構成は似ていたということで、やはり、原発のがんにいた細菌が、転移までたどり着いたことを示唆する所見でした。
まとめ
以上、がん細胞内の細菌は、原発部位から目的地の遠い臓器まで血液中を一緒に旅をして、その間、がん細胞の骨格を強化することで死ぬのを防ぎ、最終的に転移先で増える手助けをしているという驚くべき結果でした。
一方で、治療という意味では、今回のマウスの実験で、がん内部の細菌を除去すると肺への転移が減ったように、人のがんにおいても、抗生剤を使った同じような戦略が考えられます。
たとえば、原発がんの細菌を抗生剤などで除去できれば、転移を防ぐことができるかもしれません。
今後の研究成果に期待したいですね。
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