薬物療法でがんが消えることがあるのか?がん治療薬の開発は、どんどん進んでいます。なかでも、「免疫チェックポイント阻害薬」は、次々に新しい薬が登場しています。今回は、直腸がんに対する抗PD-1抗体「ドスタルリマブ」の臨床試験での衝撃的な結果を紹介します。
はじめに
がん治療薬の開発は、どんどん進んでいます。
とくに、免疫のブレーキを外すという薬「免疫チェックポイント阻害薬」は、次々に新しい薬が登場し、さらに、適応となるがんの種類が増えつつあります。
現在は、オプジーボやキイトルーダという薬がメインですが、今後は、新しい治療薬が増えることが期待されます。
今回は、新しい免疫チェックポイント阻害薬ドスタルリマブの臨床試験での衝撃的な結果を紹介します。
新しい免疫チェックポイント阻害薬ドスタルリマブ
このドスタルリマブは、免疫のブレーキPD-1に対する抗体薬です。
がん細胞は、攻撃をしかけるT細胞のPD-1に、おもにPD-L1を結合させることによってブレーキをかけて、免疫の攻撃から逃れています。
ドスタルリマブは、PD-1を先回りして塞いでしまう薬で、がんに免疫のブレーキを踏ませず、攻撃力を高めるという効果が期待できます。
ドスタルリマブは、アメリカではすでに、DNAミスマッチ修復機構の欠損がある固形がんに対して、承認されています。
この、DNAミスマッチ修復機構の欠損とは、DNAが複製される時におこるエラーを修復するシステムが壊れている状態のことです。
正常の細胞であれば、DNAが複製される時におこるエラーは、修復システムによって、取り除かれるため、正確にDNAが複製されます。
一方で、このミスマッチ修復機構が欠損している細胞では、修復システムが正常に機能していないため、エラーがおこったままとなり、遺伝子変異が蓄積されていきます。
その結果、がんが発生する原因となります。こういったメカニズムで発生するがんを、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-high)のがんと呼びます。
大腸がん患者さんの約5%にこのミスマッチ修復機構の欠損があると報告されています。
今回、新しい免疫チェックポイント阻害薬であるドスタルリマブの直腸がんに対する臨床試験で、非常に高い効果がみられたという報告がありましたので紹介します。
ドスタルリマブで進行した直腸がんが消失
今年の6月に、ニューイングランドジャーナルオブメディシンに報告された論文です。
新規抗PD-1抗体ドスタルリマブの直腸がんに対する第二相臨床試験の短期結果についてです。
対象患者は、局所進行のステージIIまたはIIIの直腸がんで、ミスマッチ修復機構の欠損があるがんに限定しています。
治療は、ドスタルリマブ(500mg)の単独投与を3週間おきに6ヶ月間(合計9サイクル)行って、その後、予定としては、放射線と抗がん剤の併用を行う計画でした。
全部で16名の患者が参加したとのことですが、今回は、治療後少なくとも6ヶ月の観察が可能であった12名についての治療経過の報告です。
結果ですが、12人全例で完全奏功が得られた(腫瘍が確認できなくなること)ということで、MRIやPET、内視鏡検査、あるいは、生検などの検査によって、腫瘍がまったく認められなくなったということです。
本来は、残ったがんに対して放射線や抗がん剤治療、あるいは手術が追加される予定でしたが、完全奏功の場合には、無治療で経過をみるという方針でしたので、その後、治療なしで、現在も経過をみているとのことです。
また、全員に治療に伴う重篤な副作用(グレード3以上)はみられませんでした。
一般的には、免疫チェックポイント阻害薬による効果は、他の抗がん剤などよりも、長期間、持続する傾向にあります。
ただ、今後、治療しないまま、どのくらいの期間、がんがコントロールできるかは、まだ分かっていません。しばらくしてから、がんが再発してくる可能性もあります。
ですので、今後の研究結果を見守りたいとは思いますが、直腸がん患者さんにとって非常に期待できる治療薬になる可能性があります。
というわけで、今回は、新薬で進行した直腸がんが消えた?というお話でした。
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