ニュースなどで話題になっている「小麦粉(メリケン粉)で日本人のがんが増える」という発言にはエビデンス(科学的根拠)があるのでしょうか?日本人を対象とした、米、パン、めん、シリアルの摂取と大腸がんとの関係を調査した集団研究の結果を紹介します。
はじめに
先日からニュースなどで話題になっているのが、「小麦粉(メリケン粉)で日本人のがんが増える」という、ある人の発言です。
昨日7月12日のBussiness Journalというネットニュースに、このような記事がでました。
「参政党代表、「メリケン粉ががん増加の原因」発言が物議…がんと小麦粉の関係は?」というタイトルです。
これは、記事を読んでいただいたらわかるのですが、とある政党の代表のオフィシャルサイトの記事が元になっています。
内容をまとめると「日本人が戦後、アメリカから来た小麦粉(メリケン粉)を食べるようになってから、日本人のがん(とくに小腸がんや大腸がん)が増えるようになった」とのことです。
また、このBussiness Journalの記事のなかでは、日本に輸入される小麦に使用されている強力な除草剤「グリホサート」やパンに含まれる添加物の発がん性の問題を指摘しています。
小麦粉でがん、とくに大腸がんが増えるというのが事実だとしたら、ほぼ毎日のように食べているパンやめんを含め多くの食品に入っていますので、とても心配になります。
はたして、本当なのでしょうか?
今回は、この発言に科学的根拠(エビデンス)があるのかについて調べてみました。
小麦粉とがんとの関係:日本人での研究
日本人での話ですので、日本人における疫学研究を探したところ、ひとつ、該当する研究を見つけることができました。
2014年に Br J Cancer という雑誌に報告された論文で、「日本人男性・女性における米、パン、めん、およびシリアルの摂取と大腸癌との関係:JPHC Study」というタイトルです。
これは、日本における大規模な「多目的コホート研究」で、がんをはじめ様々な疾患と生活習慣などとの関係を調査する前向き研究です。
この集団のうち、1995年~1999年までにアンケート調査を行った45歳から74歳までの日本人およそ73500人が対象となりました。
食事内容のくわしい調査から、お米、パン、めん類、およびシリアルの摂取量を推定し、その後、平均8年間の追跡期間における大腸がんの発症率との関係を解析しました。
もし、小麦粉が大腸がん増加の原因だとしたら、パンやめん類を多く摂取する人で、大腸がんのリスクが高くなっているはずです。
結果ですが、まず米については、男性も女性も、最も多く食べるグループと、最も少なく食べるグループにおいて、大腸がんのリスクに差を認めませんでした。
ただし、男性においては、米をもっとも多く食べるグループにおいて、統計学的な差はなかったものの、直腸がんのリスクが高い傾向にあったとのことです。
一方で、パン、めん類、およびシリアルの摂取に関しては、大腸がんとの関係を認めなかったということです。
つまり、この日本人を対象とした大規模な研究では、小麦粉が原料のパンやめん類を多く摂取することで大腸がんのリスクが高くなるということはない、という結論です。
まとめ
小麦粉(メリケン粉)を多く摂取すると大腸がんが増えるというエビデンスは、少なくとも私が調べた範囲では、ありませんでした。
ただし、だからといって、好き放題、パンを食べていいというわけではありません。
パンにかぎらず、精白した穀物を原料とした食品は、過度に摂取すると、がんだけでなく他の疾患のリスクを高める可能性があります。
がんを予防するためには、基本的には、「食事はかたよらずバランスよくとる」ことが推奨されており、とくに野菜と果物をしっかりと食べることが大切ということです。
以上、小麦粉でがんが増えるというのは本当か?というお話でした。
グルテンと癌との関係についての過去の動画はこちら:
【注意】あくまで、ひとつの研究結果であり、今回の結果が皆さんに当てはまるとは限りません。人間には多様性があります。年齢、性別、体格(身長・体重)、遺伝的特徴、生活習慣、さらに、腸内細菌のパターンなど、ひとりとして同じ人間はいません。同じ食べ物を同じだけ食べたとしても、消化能力や吸収効率は人によって異なりますし、代謝や健康への影響はまさに千差万別です。ですので、誰にでも当てはまる食事のエビデンスはありません。そういった前提で、「がんと食事・食べもの」についての情報に触れて頂きたいと思います。
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