がんの生存率・死亡率に影響する因子は、複数存在するのですが、なかには意外なものがあります。今回は、がん死亡リスクを高める「性的関心の喪失」についての日本人を対象とした研究論文を解説します。
はじめに
がんの生存率・死亡率に影響する因子は、複数存在するのですが、なかには意外なものがあります。
昨年、このような動画を配信しました。
「がん生存率に影響する意外すぎる3つの因子」というタイトルです。
このなかで、がん生存率と関係する因子の1つとして、「配偶者(パートナー)の有無」を紹介しました。
これは、がんと診断された患者さんに配偶者(あるいはパートナー)がいる場合、いない患者さんに比べて生存率が高い、つまり、治療がうまくいって長生きする傾向があるということです。
やはり、パートナーの存在が精神的な支えとなって、がん治療への励みになることが、長生きにつながる理由だと考えられます。
そして、今回、新しい研究によると、「意外なこと」が、がんの死亡率を高めるということが判明しました。
というわけで、今回は、その意外なことを紹介します。
がん死亡率を左右する意外なこととは?
2022年12月に、PLoS One という雑誌に報告された論文で、日本における前向きの観察研究です。
タイトルは、「日本の一般人口における性的関心の喪失と全死亡率との関係」というものです。
山形県に住んでいる40歳以上の日本人2万人以上を対象としてアンケート調査を行いました。何を調べたかというと、「性への関心」です。
質問内容は、非常に単純なんですが「現在、異性に対して性的興味がありますか?」というもので、答えは「はい」または「いいえ」の2択でした。
「はい」と答えた人は、性的な関心があり、「いいえ」と答えた人は、性的な関心なし、と定義しました。
そして、平均で7年ほどの観察期間における、がんや心血管病などによる死亡率との関係を調査しました。
その結果、女性では関連がなかったのですが、男性において、性への関心は、死亡率と有意に相関していました。
年齢など死亡率に影響する他の因子で調節した解析では、性への関心がある人(異性に対して性的興味があると答えた人)では、性への関心がない人と比べて、すべての死因による死亡率がおよそ30%低くなっていました。
また、がんによる死亡率についても同じ結果で、性への関心がある人では、性への関心がない人と比べて、がん死亡率が28%低くなっていました。
一方で、心血管病による死亡率には、関係がなかったということです。
つまり、性的関心を失った男性では、全死亡率およびがん死亡率が有意に上昇した、という結果です。
こういった研究は少ないのですが、日本人において「性的な関心・興味が生きる力になる」ということを証明した貴重な研究だと思います。
当然、年齢とともに、性的な興味は失われていく傾向にあるのですが、いくつになっても、とくに男性は、性的な興味を持ち続けるべきである、ということです。
さいごに
これは、私の経験からも、納得できる結果です。
というのも、外来で多くのがん患者さんと仲良くなって、いろいろなプライベートなこと(そういった性に関すること)についてお話しをして感じることは、高齢にもかかわらず、がんの手術を乗り越えて、長生きしている人のなかには、性的な関心を持ち続けている人が多い、ということです。
「外来でそんな話をしているのか?」とお叱りを受ける生きがいが必要で、パートナーとの関係も重要ですしかもしれませんが、やはり、病気を克服するためには、性的興味も、生きる力になると思います。
ということで、今回は、がん死亡率を高める意外なこと、というお話しでした。
#性的興味 #がん死亡率 #全死亡率 #異性への関心 #性への関心
最新記事 by 佐藤 典宏 (全て見る)
- 余命(予後)と関係する「がん再発」4つのパターン - 2023年1月23日
- 【がん薬物療法】分子標的薬 アダグラシブ:転移を認めるステージ4「大腸がん(KRAS G12C)」に奏効率46% - 2023年1月21日
- 便秘がちな人に増える意外な「がん」とは?慢性の便秘でリスクが増えるのは大腸がんではなく・・・ - 2023年1月19日