血液検査のなかでも、意外と軽視されがちなのが、貧血(鉄欠乏性貧血)です。今回は貧血があると、若年性大腸がんのリスクが非常に高くなるという研究結果を紹介します。
はじめに
血液検査のなかでも、意外と軽視されがちなのが、貧血です。
会社の健康診断や、病院の検査などでときどき指摘されるこの貧血(鉄欠乏性貧血)ですが、くわしい検査を受けないまま放置している人もいるかもしれません。
とくに、健康に自信がある若い人では、「軽い貧血くらい、鉄分とれば大丈夫でしょう」と気軽に考えてしまうこともあるでしょう。
ところが、貧血は、たとえ他に症状がなくても、大腸がんなど、消化管のがんの一つのサインになりますので、注意が必要です。
では、この貧血があると、実際には、がんと診断されるリスクはどのくらい高くなるのでしょうか?
今回は、貧血と若い人の大腸がんのリスクとの関係を調査した研究を紹介して、がんのサインとしての貧血の重要性について解説します。
今回の動画の内容です。
1.貧血の診断基準
2.貧血・血便と大腸がんのリスク
3.貧血と言われたらどうしたらいい?
以上の3つについて、お話していきます。
がんのサインとしての貧血の重要性
貧血の診断基準
血液検査の結果で、ヘモグロビンの値が成人男性で「13g/dL未満」成人女性で「12g/dL未満」80歳以上の場合は「11g/dL未満」で貧血と診断されます。
貧血の人は意外と多くて、とくに女性では、およそ10人に1人(とくに月経がある女性では、5人に1人)が貧血と診断されるとのことです。
貧血の中でも、一番多いのが鉄不足が原因の「鉄欠乏性貧血」です。
鉄欠乏性貧血の原因はいろいろとあるのですが、がんができた場合にも、じわじわと出血することで、鉄欠乏貧血がおこります。ですので、貧血は、がんの重要なサインの一つとして知られています。
ただ、貧血も軽い場合には、息切れや疲れやすいといった症状がでないため、放置されることも結構あります。
貧血・血便と大腸がんのリスク
では、貧血があると、どのくらいがんと診断されるリスクがあるのでしょうか?
最近の研究を紹介します。
2021年にGUTという雑誌に報告された論文です。
タイトルは、「鉄欠乏性貧血および血便がある人の若年性大腸がんのリスク」です。
若年性大腸癌とは、50歳未満の人に発症する大腸がんで、最近、とくに欧米では、生活習慣の影響で、増加していることが報告されています。
この研究では、アメリカの18~49歳までの若い成人を対象として、血液検査で、貧血がある人と、貧血のない人の集団を追跡調査して、5年間に大腸がんを発症した人の割合を比較しました。
同時に、便に血が混じる「血便」がある人と、血便がない人の集団についても、同じように大腸がんの発症リスクを比較しました。
その結果、5年間での大腸がんの診断率は、貧血なしのグループが0.05%であったのに対して、貧血ありのグループでは、0.45%と高く、リスクは貧血なしの集団に比べて10倍以上であったとのことです。
とくに女性に比べて男性の場合、貧血があると大腸がんになるリスクが高くなっていました。
また、年齢が高くなるにつれて、リスクが上昇していました。
一方で、血便がある集団でも、大腸がんのリスクがおよそ10倍に上昇していたことより、貧血は、大腸がんの典型的な症状である血便と同じくらいリスクを高めるサインであることがわかりました。
以上の結果から、貧血は、若い人の大腸がんのリスクが10倍にも高くなる危険なサインであるという結論です。
貧血と言われたらどうしたらいい?
最後に、貧血がわかったらどうしたらいい?ということです。
これは、まず、健康診断であれば、指示にしたがって、医療機関で精密検査(2次検査)を受けることです。
精密検査の案内がない場合でも、胃腸科の専門病院やクリニックなどで、大腸の検査をうけることをおすすめします。
とくに、かたよった食事とか、月経過多などの鉄欠乏性貧血のはっきりした原因が見当たらない場合には、いちど大腸内視鏡検査をうけることをおすすめします。
最後にあらためて貧血の診断基準ですが、ヘモグロビンの値が男性で「13g/dL未満」女性で「12g/dL未満」です。
以上、貧血は大腸がんのサインで、とくに若い人の場合、リスクが10倍にもなる危険なサインですので注意が必要です。
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