がんになったときに、まず問題になるのが、治療を受ける「病院えらび」です。どうやって病院を選ぶのがベストなのでしょうか?じつは正解はありませんが、エビデンスに基づいたアドバイスはあります。がんの手術を受ける病院を選ぶときに基準にしてほしいのが、「手術件数」です。
はじめに
がんになったときに、まず問題になるのが、治療を受ける「病院えらび」です。
とくに手術を受ける場合には、慎重に病院を選びたいと思うでしょう。
病院選びの基準は、人それぞれだと思います。
近くの通いやすい病院がいい人、名医がいる有名な病院がいい人、あるいは雑誌やインターネットの病院ランキングを参考にする人もいるでしょう。
では、どうやって病院を選ぶのがベストなのでしょうか?
じつは正解はありませんが、エビデンスに基づいたアドバイスはあります。
がんの手術を受ける病院を選ぶときに基準にしてほしいのが、手術件数です。
手術件数とがん手術の治療成績との関係
医学用語で、手術件数が多い病院をハイボリュームセンター(high volume center)、逆に少ない病院をローボリュームセンター(low volume center)といいます。
一般的に、どんなことでも「数(あるいは量)をこなせば上達する」と言われていますが、実はがんの手術に関しても、「手術件数の多いハイボリュームセンターのほうが、ローボリュームセンターに比べて手術の成功率が高い」というエビデンスがあります。
ここでいう成功率とは、手術後の合併症が少なく、手術に関連した死亡リスクが低いということです。
簡単に言うと、手術をたくさんこなしている病院のほうが、実力が高いということです。
たとえば、東京大学病院外科の研究チームが、全国の848の病院で膵頭十二指腸切除術という比較的大きな手術を受けた1万人以上の患者さんについて、手術による死亡率、入院期間、医療費について、病院の年間の手術件数との関係を調査しました。
その結果、入院中の死亡率は、手術件数が年間8例未満の病院(ローボリュームセンター)では5.0%と高かったのに対し、年間29例以上の病院(ハイボリュームセンター)では1.4%と有意に低くなっていました。
さらに、ハイボリュームセンターでは入院期間も短く、入院中にかかったすべての医療費も安かったとのことです。
さらに、病院の手術件数は、手術後の長期の予後(生存期間)にも影響することがわかっています。
極端な言い方をすると、たくさん手術をしている病院で手術を受けたほうが、長生きする可能性が高いということです。
実際に、2021年に、J Epidemiology という雑誌に報告された日本の病院の手術件数とがん手術後の生存期間の関係についての研究では、すい臓がんの手術を受けた患者さんの3年後の生存率は、年間のすい臓癌の手術件数が多いハイボリュームセンターで最も高く、手術件数が少ないローボリュームセンターでもっとも低くなっていました。
比較すると、ローボリュームセンターで手術を受けた患者さんの死亡リスクは、ハイボリュームセンターで受けた患者さんよりも90%も高くなっていました。
この研究では、すい臓がんの他に、食道がん、胆道がんの患者さんの生存期間も調査していますが、同じように、ハイボリュームセンターのほうが、長期の生存率が高かったとのことです。
ですから、より専門性が高く、高度な技術が要求されるがんの手術では、とくに(すこし遠くても)手術件数が多いハイボリュームセンターで受けることをおすすめします。
病院のがんの手術件数を調べる方法
病院の手術件数を調べる方法ですが、いろいろな雑誌に「手術数でわかるいい病院」、「病院の実力」や「病院ランキング」といった特集号がありますので、最新のものをみるのがいいと思います。
また、ネットでも調べることができます。
たとえば、Calooというサイト(https://caloo.jp/)では、日本のDPCという診療報酬システムを導入している病院における手術件数のランキングを調べることができます。
というわけで、がん手術の病院格差というお話でした。
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