「がんの進行を急速に早める食べもの」は本当にあるのでしょうか?
次の3つの疑問について解説します。
1.発がん性が確認されている食べもの
2.乳製品でがんが進行するのか?
3.酸性化食品でがんが進行するのか?
はじめに
先日、プレジデントオンラインというウェブサイトに、「がんの進行を急速に早める…がん治療医がすぐさま摂取をやめさせる"ある食べもの"」という記事がでました。
ご覧になったかたもいらっしゃるかもしれませんが、衝撃的なタイトルで、とくに食事に気を遣っているがん患者さんにとっては気になる記事だと思います。
しかも、記事を書いた医師が大学病院の名誉教授ということで、信用してしまうかたも多いかもしれません。
今回は、この記事に書かれていることを科学的な見地から検証したいと思います。
がんを急速に進行させる「ある食べもの」とは?
この記事の内容をまとめると、「がん細胞が好む糖質が多い食べ物や体を酸性化する食品を食べるとがんが早く進行するので、こういった食品をやめるべき」と主張しています。
そして、この著者のクリニックでは、じっさいに食事制限やアルカリ化食事療法をとりいれて、がんが劇的寛解していると言っています。
見出しを読んでみますと、「がん細胞は酸性の環境を好むため、体内環境を酸性に傾ける食品は控えたほうがよい。特に甘いチーズケーキなどの乳製品は最悪だ」となっています。
該当する部分のじっさいの記事を読んでみますと、「牛乳、バター、チーズなどの乳製品には、がん細胞の活動活性を上げるIGF-1(インスリン様成長因子)が多く含まれています。よく「体にいい」と言われているヨーグルトもその意味では例外ではなく酸性化食品なのです。チーズやバター、とりわけチーズの酸性化力は強烈です。
したがって、乳製品の生クリームがたっぷりと載った甘いチーズケーキなどは、がん細胞にIGF-1とブドウ糖を与え、かつ、がん細胞周辺の微細環境をがんが好む酸性に傾けるという点で、「最悪の食品」と言っていいでしょう。
私のこれまでの臨床経験から見ても、とくにがんにかかった女性の患者さんの場合は、「甘い洋菓子」などの甘味品を多食していたという傾向が顕著に見られます。
したがって、私のクリニックでは、このような食歴を持つ患者さんに対しては乳製品や甘味品の「即時摂取中止」を指導しています。実際、多くの患者さんが乳製品や甘味品の即時摂取中止をはじめとする食生活の見直しによって劇的寛解を得ているのです。」
では、はたして「がんの進行を急速に早める食べもの」は本当にあるのでしょうか?
今回の動画では、次の3つの疑問について解説します。
1.発がん性が確認されている食べもの
2.乳製品でがんが進行するのか?
3.酸性化食品でがんが進行するのか?
1.発がん性が確認されている食べもの
まず、「がんの進行を急速に早める食べもの」が存在するのか?ということです。そんなに危険な食べ物があったら、発がん性物質に分類されているはずです。
発がんのリスクを高めることが証明されている特定の食べものについては、現在のところ、IARC(国際がん研究機関)が「ヒトに対して発がん性がある」と分類した加工肉(ベーコン、ソーセージ、ハムなど)しかありません。つまり、国際的には、がんのリスクを高めることが強く疑われる食べ物は「加工肉」以外にはありません。
しかも、この加工肉でも、長期にわたって食べすぎると、大腸がんなどのリスクを15~20%高めるということですので、がんを急速に進行させるわけではありません。
当たり前ですが、チーズケーキを含む乳製品や、他の酸性化食品は、「発がん性物質」として認定されていません。
ですので、まず、基本的に、タイトルにあるような「がんの進行を急速に早める食べもの」はないと考えられます。
乳製品でがんが進行するのか?
次に、乳製品でがんが進行するか?についてです。
以前の動画でもお話しましたが、乳製品を多く摂取することで、がんのリスクが増加するというエビデンスはありません。
たとえば、日本人の女性23,172人を対象とした、食事内容と乳がん発症リスクとの関係を調査した前向き研究では、牛乳や乳製品を多く摂る「乳製品パターン」の食事をとっている女性は、乳がんの発症リスクの増加や減少を認めませんでした。
つまり、乳製品と乳がん発症リスクとの関連はないという結果でした。
ただし、加糖飲料(砂糖など糖が入った飲みもの)や、糖質が多い偏った食事は、一部のがんの発症リスクを高める可能性が指摘されています。
したがって、甘いものが全部だめなわけではありませんが、血糖値が急激に上がるような食べものは控えめにするほうがいいという点では、賛成できます。
ちなみに、チーズケーキはどうでしょうか?
チーズケーキの糖質量は、一個あたり、およそ15~20gということで、そんなに多くありません。
他のケーキと比べて小麦粉や砂糖の使用量が控えめで、むしろ低糖質です。
ちなみに、ごはん(白米)は、中盛り1杯あたり約50gですので、ごはんに比べてもかなり少ないですね。
また、食べたあとの血糖値上昇の度合いを示すGI(グリセミックインデックス)値も63ということで、80以上の白米やパン、うどんなどに比べると、低くなっています。
したがって、チーズケーキが特別、血糖値が上がりやすい食べ物というわけでもありません。
酸性食品でがんが進行するのか?
最後に、酸性食品でがんが進行するのか?についてです。
この記事のなかでは「がん細胞は酸性の環境を好むため、体内環境を酸性に傾ける食品は控えたほうがよい」と言っていますが、はたして酸性食品でがんが進行するのでしょうか?
そもそも、酸性の食べ物、アルカリ性の食べ物とはどういった意味でしょうか?
これは、食品自体が酸性・アルカリ性ということではなく、多くの医学研究では、「腎臓への酸の負荷」という値が用いられています。
つまり、簡単に言うと、食べた後に腎臓が処理しないといけない酸の量のことです。
この酸の量が多ければ、酸性食品、酸の量が少なければ、アルカリ食品ということになります。
ちなみに、この数値が高い酸性食品には、魚、肉、チーズなどの乳製品、卵などがあります。一方で、数値が低いアルカリ性食品には、豆、果物、野菜があります。
記事のなかで「とりわけチーズの酸性化力は強烈です」と書いてありますが、チーズは確かに酸性食品ですが、魚や肉のほうが酸性の数値が高いので、そこまで酸性化力が強烈とは言えないと思います。
酸性・アルカリ性食品とがんとの関係については、過去の研究によると、健康な人が、長年にわたって酸性食品を多く食べることによって、膵臓がんや乳がんの発症リスクが高くなるという研究結果があります。
しかし一方で、5万人以上を対象として、酸性・アルカリ性食品と、がんを含むすべての死因による死亡率との関係を調査した大規模な研究によると、酸性食品を多く食べていたグループだけでなく、アルカリ性食品を多く食べていたグループも死亡率が高くなっていて、U字型の生存曲線となることがわかりました。
つまり、酸性食品ばかり摂るのもよくないのですが、逆に、アルカリ性の食品ばかりを摂るのもよくないということです。
まとめ
以上まとめますと、
1.現在、発がん性があることが強く疑われている食品は、加工肉だけです。
2.チーズなどの乳製品でがんが進行するという研究結果はありません。
3.酸性食品でがんが進行するというエビデンス(疫学研究や臨床試験)はありませんし、酸性食品もアルカリ性食品も食べすぎれば死亡リスクが高まることが示されています。
さらに、がん患者さんを対象とした研究で、アルカリ性食品を多くとったほうが生存期間が延長したことを示す質の高い臨床試験などのエビデンスはありません。
何度も言いますが、がん患者さんにとって何を食べるかはもちろん重要です。重要ですが、特定の食べものでがんが急に進行することはありませんし、食事でがんが劇的に寛解することは期待できません。
ですので、こういったがん患者さんの心配や不安を煽るタイトルの記事や本を読む場合には、注意が必要だと思います。
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