海外から「たった3つの簡単なことを取り入れるだけで、がんのリスクが61%も低下」というニュースがでました。今回は、サプリメントと筋トレのがん予防効果を調べた最新のランダム化比較試験の結果を紹介します。
はじめに
これまで、特定の栄養素や運動が、がんのリスク低下と関連していることが、多くの観察研究から明らかになってきました。
ところが、サプリメントや運動のがん予防効果を証明するためのエビデンスの質が高いランダム化比較試験は、ほとんど実施されていません。
唯一、ランダム化比較試験の2次解析で、ビタミンDのサプリメントによって進行がんの発症リスクが低下するという結果のみ報告されています。
したがって、これまでがんを予防するサプリや運動の効果については、明確なエビデンスはありませんでした。
ところが、今年の4月に、海外では、ちょっとしたニュースとして、ある研究結果がとりあげられました。
「がんのブレークスルー」70歳以上でも、たった3つの簡単なことを取り入れるだけで、がんのリスクが61%も低下、というタイトルです。
これは、サプリと筋トレががんの発症率におよぼす影響を調べるランダム化比較試験の結果に基づいた記事で、今回は、この研究を紹介します。
サプリと筋トレでがんリスク60%低下
2022年の4月に Fronties in Aging という雑誌に報告された論文です。
とくに大きな健康上の問題のない70歳以上の高齢者を対象として、ヨーロッパの5つの国の多施設で行われた二重盲検ランダム化比較試験です。
最終的な参加者は2157人であったとのことです。
がんの発症リスクに対して、3つの健康への介入(ビタミンDのサプリ、オメガ3脂肪酸のサプリ、および、自宅での筋トレ)について、それぞれ単独の効果と、組み合わせた場合の効果を調べるようなデザインの試験です。
ビタミンDのサプリメントは1日2000 IU(国際単位)、オメガ3脂肪酸は1日1g、自宅での筋トレは、「立ち上がり運動」などごく簡単な運動の組み合わせです。
一方、プラセボ群では、ニセのサプリメント、筋トレのコントロール群には、ストレッチのみの運動をしてもらいました。
ちなみに、参加者や試験担当者にも、どちらのグループか分からない二重盲検の試験ですので、サプリメントの中身がわからないように、同じカプセルにして飲んでもらったとのことです。3年の観察期間中に、81人ががんを発症していました。
結果です。
まず、ビタミンD、オメガ3、筋トレのそれぞれ単独のグループにおけるがんの発症リスクについては、20から30%低下する傾向にありましたが、統計学的に有意な差はなかったということです。
次に、これらの介入のいずれか2つを組み合わせると、およそ50%ちかく、がんのリスクが低下しており、さらに、3つをすべて組み合わせると、61%もがんのリスクが低下していたとのことです。
というわけで、このランダム化比較試験の結果から、70歳以上の高齢者では、ビタミンDとオメガ3脂肪酸のサプリメントと筋トレの組み合わせが、がんのリスク低下と相関していた、という結論です。
とくに、サプリや筋トレ単独よりも、この3つを組み合わせることで、より高い予防効果が得られる可能性があるとのことです。
ただし、この試験では、観察期間の中央値が約3年と比較的短いことや、全体の参加者の規模が小さいために、がんになった人が81人と少ないことなど、いくつかの限界もありますので、結果についても慎重に評価すべきであると感じます。
とはいえ、こういったランダム化比較試験はなかなか実施されないのが現状ですので、ひとつのデータとして貴重だと思います。
まとめ
高齢者において、サプリ(ビタミンDとオメガ3脂肪酸)と筋トレでがんのリスクが60%低下、という最新の研究結果を紹介しました。
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