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がんの余命(生存期間)を決定するあの生物!

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今回は、がん患者さんの余命(生存期間)を左右する、体に住み着いているあの微生物についてです。腸内細菌は、全身の炎症や免疫機能と深く関わっており、そのバランスが乱れるとがんの発生や進行を促すことがわかってきました。

はじめに

今回は、がんの余命を決めるあの生物、というお話をします。

今年の4月に Gastroenterology という雑誌に報告された、日本の研究チームからの研究結果を紹介します。

この研究では、すい臓がん患者の糞便のなかの腸内細菌を調べて、その種類から、死亡リスクが低い腸内細菌のパターンのグループAと、死亡リスクが高いグループBに分けたということです。

死亡リスクが低いグループAに豊富に見られる菌の多くは、酪酸や酢酸など短鎖脂肪酸を産生する菌とわかったそうです。

この短鎖脂肪酸には、免疫の機能を維持する働きがあることが分かっていますので、Aのグループのほうが、腸内環境が良好で、がんに対する免疫力が高くなっていたことが考えられます。

つまり、すい臓がんの患者の余命を決めるのは、腸内細菌ということなのです。

今回は、
1.がんと腸内細菌の関係
2.腸内細菌でがん治療?
3.がんで死なないための「腸活」

この3つについて、お話します。

1.がんと腸内細菌の関係

ごぞんじのように、腸内細菌は、体を守り、人間のパートナーとして健康を保つ手伝いをしています。

腸内細菌は、消化吸収だけでなく、全身の炎症や免疫機能とも関係しています。ですので、腸内環境が乱れると、炎症がおこったり、免疫の機能が低下することで、がんになりやすくなるわけです。

研究によると、腸内細菌が多く存在する大腸のがんだけでなく、胃がん、膵臓がん、そして、腸とつながっていない、乳がん、肺がん等にも、腸内細菌が関与していることが報告されています。

まず、口の中の細菌(おもに歯周病の原因となる悪玉菌)が、腸に移動して、そこから、すい臓に到達します。

そこで炎症をおこしたり、免疫の機能を低下させて、がんの発生や進行に関係していると考えられます。じっさいに、がんの組織のなかには、細菌が確認されています。

さらに、すい臓とは離れた腸の中のいわゆる腸内細菌の乱れも、全身の免疫機能を低下させて、リモートで、すい臓がんの進行に関係している可能性もあります。

つまり、細菌は、体の色々なところで、がんの発生や進行をコントロールしていると言えます。

2.腸内細菌でがん治療?

では、腸内細菌を変化させることで、がんの治療効果を高めることはできるのでしょうか?

これは、非常に期待されている治療戦略です。じっさいに、腸内細菌をターゲットにしたいくつかのがん治療が開発され、じっさいに動物実験や人での臨床試験が行われています。

ここでは3つの治療法を紹介します。

1.抗生剤

これは、例えば、がんを進行させたり、抗がん剤が効かなくなる原因となっている一部の悪玉菌を、抗生剤で除去する作戦です。
じっさいに、後ろ向きの研究ですが、すい臓がんに対して抗がん剤治療を受けていた患者さんのうち、抗生剤を使っていた患者さんのほうが、生存期間が長かったという研究もあります。
したがって、通常の抗がん剤治療に加えて、抗生剤を併用する治療法が考えられています。一方で、抗生剤によって、善玉菌も含めた腸内細菌が死滅して、免疫機能に悪影響をおよぼす懸念もあります。

2.プロバイオティクス+プレバイオティクス

これは、簡単に言うと、善玉菌とそのエサとなる食物繊維を摂取して、腸内環境をととのえる作戦です。
2021年に報告された研究では、皮膚がん(メラノーマ)の患者のうち、食事から十分な食物繊維を取っていた患者のほうが、免疫治療の効果が高かったことが報告されています。

3.糞便移植

腸内細菌を変えるもっとも手っ取り早い方法が、この糞便移植です。

これは、理想的な腸内環境の人の便を、もらうということです。

ちょっと気持ち悪く感じるかもしれませんが、人からもらった便を直接、内視鏡で腸のなかに入れたり、カプセルにして飲んだりする方法です。

2021年のサイエンスに、この糞便移植によってがんの治療効果が高まったという2本の論文が報告されました。

これは、免疫治療がよく効いた人の便を、あまり効かなかった人に移植した臨床試験ですが、この結果、便の移植をうけた患者さんの治療効果がたかまって、がんが小さくなったそうです。

というわけで、腸内細菌をターゲットにした3つの治療法でした。

ただ、こういった腸内細菌をターゲットにした治療法はまだ研究段階ですので、実際にがん患者さんに使えるまでには、しばらく時間がかかりそうです。

3.がんで死なないための「腸活」

がんにならないため、そして、がんで死なないためには、腸内細菌の理想的なバランスを保つことが重要になってきます。

どういうふうに腸を鍛えたらいいのか?ということですが、3つの習慣をあげてみます。

1 口腔内の細菌をコントロール

がんの一つの原因に、歯周病があります。

じっさいに、歯周病の人は、肺がんやすい臓がんのリスクが高くなることが報告されています。

これは、歯周病菌が、生き残ったまま腸のなかにたどりついて、腸内環境の乱れにつながって、がんの原因になっている可能性があります。

したがって、まずはしっかりとした歯みがきを習慣にし、歯垢や歯石がつかないようにしましょう。

歯と歯の間など、歯ブラシだけでは磨ききれない場所には、歯間ブラシやデンタルフロスを使うのもよいでしょう。

また、定期的に歯科を受診し、歯みがきの指導や歯石除去をしてもらいましょう。

2 プロバイオティクスとプレバイオティクスをとる

プロバイオティクスとは、腸内環境を改善することで、健康に有益な効果をもたらす微生物のことで、いわゆる善玉菌のことです。

発酵食品(ヨーグルト、納豆、チーズ、キムチなど)や乳酸菌飲料・サプリメントなどを毎日摂取することをオススメします。海外からの研究では、食べ物を意識して変えることで、腸内細菌が変化することが確認されています。

また、プレバイオティクスは、オリゴ糖や食物繊維になります。

とくにオリゴ糖がいいので、料理のときに、砂糖のかわりにオリゴ糖を使うことをおすすめします。

食物繊維をとるためには、やっぱり、野菜と果物です。そして、玄米などの未精製の穀物もいいですね。

また、トウモロコシのデンプンから作られた水溶性の食物繊維である「難消化性デキストリン」もおすすめです。

これらの食品を、先ほどのプロバイオティクスと同時に毎日摂取しましょう。

3 心理的ストレスを減らす

脳と腸は密接に関連していて、「脳腸相関」といわれていますが、心理的ストレスが腸内細菌を乱すことが明らかになっています。

ですので、腸内環境を乱さないためにも、心理的ストレスを減らす生活を送るのが理想的です。

以上、がんの余命を決める腸内細菌というお話でした。

 

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外科医(産業医科大学第1外科講師)/がん研究者/YouTube「がん情報チャンネル」登録者2万人突破!/著書に『ガンとわかったら読む本』『がんが治る人 治らない人』『がんにならないシンプルな習慣』など。がん患者さんと家族に役立つ情報を発信します。
  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

外科医(産業医科大学第1外科講師)/がん研究者/YouTube「がん情報チャンネル」登録者2万人突破!/著書に『ガンとわかったら読む本』『がんが治る人 治らない人』『がんにならないシンプルな習慣』など。がん患者さんと家族に役立つ情報を発信します。

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