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【最新研究】ケトン体でがんの増殖がストップ:糖質制限食による癌抑制の新たなメカニズムが解明

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先日、Nature(ネイチャー)に報告された研究によると、糖質制限(ケトン食)でからだに増えるケトン体のひとつ、β-ヒドロキシ酪酸が、マウスおよび人の大腸がん細胞の増殖を抑えることが明らかとなりました。きつい食事制限なしでも、このケトン体を使えば、癌治療のサポート(相乗効果)になる可能性があります。

ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)は、サプリメントとして販売されています

はじめに

ケトン食あるいはケトン体ダイエットとは、炭水化物(糖質)の摂取量を非常に少なくして、その代わりに、大量の脂肪を摂取することにより、ブドウ糖ではなく、ケトン体という物質がエネルギーとして使われる状態に誘導する食事療法のことです。

つまり、低炭水化物・高脂肪で、摂取エネルギーの60~90%を脂肪で摂るという、かなり極端な食事療法の一種です。

ケトン食は、もともと難治性小児てんかんの治療法として以前から知られていましたが、ケトン食にがんの抑制効果があることが動物実験などで証明され、国内外で臨床研究が行われております。

日本の大阪大学の研究では、実際にケトン食を55人の進行がんの患者さんに試してみて、有望な結果であったと報告されています。

ただし、まだ、人でのランダム化比較試験など、きちんとした臨床試験では効果が証明されていません。

ですので、がんに対するケトン食の効果や「なぜがんに効くのか?」というメカニズムについては、現時点では、はっきりしていません。

今回は、ごく最近、Natureという雑誌に報告された、ケトン食ががんを抑制するひとつの理由(メカニズム)についての最新情報を紹介します。

「なぜケトン食でがんが小さくなるのか?」ということを明らかにした非常に興味深い研究結果です。

ケトン体が大腸がんを抑制

2022年5月に、有名な科学雑誌 Nature(ネイチャー)に報告された論文です。

この研究では、ケトン食でからだに増えるケトン体のがんに対する効果をくわしく調査しました。

まずは、APCというがん抑制遺伝子を改変して、腸にがんが発生するモデルを使って、通常の食事(脂肪が総カロリーの13%)とケトン食(脂肪が90%)を与えて、がんの成長を比較しました。

その結果、ケトン食(90%脂肪食)を食べたマウスでは、通常食に比べて、腸のがんが有意に減っていました。つまり、がん化を抑えるという結果です。

では、ケトン食のなにが、がん化の抑制につながったのでしょうか?これを調べるために、ケトン食を与えたマウスの血中でのケトン体を調べました。

その結果、ケトン食を食べていたマウスでは、血液中に、ケトン体のひとつ、β-ヒドロキシ酪酸(BHB)が増えてました

次に、マウスの腸から、がんの元になる細胞を取って、それをオルガノイドという、3Dの培養システムで培養して、BHBの腫瘍の成長に対する影響を調べました。

その結果、BHBを培養液に加えた細胞は、加えなかった細胞と比べて、腫瘍細胞のかたまりが、有意に小さくなっていたとのことです。

ということで、たしかにBHBは、マウスにおけるがんの発育を抑制することが確認されました

以上の結果から、ケトン体のBHBががんを抑制するのであれば、ケトン食と関係なく、BHBを与えるだけで、がんが抑制されるはずです。

これを試すために、通常食を与えたマウスに、同時にBHBを飲ませてみました。その結果、通常食のマウスでも、ケトン食を与えたマウスと同じように、腫瘍の数が減っていました。

つまり、ケトン食にしなくても、ただ、BHBを単独で投与するだけでも、腫瘍を抑えることができるという結果です。

最後に、マウスではなく、じっさいに人の細胞ではどうか、という実験もしています。

健常者あるいは大腸がん患者さんから、腸の細胞をとってきて、オルガノイドという3Dの培養システムで培養を行いました。

細胞にBHBを投与すると、マウスの腫瘍細胞と同じように、人の腸の細胞の成長も抑えるということがわかりました

さらに、大腸がんの培養細胞に、直接BHBを加えたところ、成長が抑制されたということです。

まとめ

以上、今回の研究では、ケトン食によって誘導されるケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)が、大腸がんの成長を抑制するということが明らかになりました。

以前は、「糖質制限ががんに効く理由」としては、糖質を制限して、がん細胞のエサであるブドウ糖を断つことで、がんが成長できなくなる、という説を唱えている人もいました。

ところが、糖質制限によって誘導されるケトン体、なかでもβ-ヒドロキシ酪酸が、がんを抑制するということが本当の理由のようです。

ケトン食の欠点は、食事の制限がきびしいために、なかなか続かないことや、生活の質が低下することでした。

ところが、今回の研究からは、通常の食事でも、ケトン体を例えばサプリメントなどでとることで、がん治療をサポートできるようになるかもしれません

ケトン体は、もちろん薬や人工化合物でもなく、ただ体に自然に存在する代謝物のひとつですので、新たながん治療の戦略になる可能性があります。

よく、こういった基礎的な実験結果を、「たかが動物や試験管レベルの実験にすぎない」と軽視する人がいますが、がんの食事療法などの研究では、倫理的な問題で、簡単に人で試せないからこそ、こういった基礎的な研究でメカニズムをしっかりと解明することが重要であるともいえます。

ケトン食やケトン体のがんに対する治療効果については、今後の人での研究結果を待ちたいと思います。

 

  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

外科医(産業医科大学第1外科講師)/がん研究者/YouTube「がん情報チャンネル」登録者2万人突破!/著書に『ガンとわかったら読む本』『がんが治る人 治らない人』『がんにならないシンプルな習慣』など。がん患者さんと家族に役立つ情報を発信します。

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