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がん免疫を活性化する簡単な方法とは?運動が治療効果を高める理由

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がんに対する免疫システムを活性化する新しいメカニズムが明らかになったということです。じつは、ごく簡単な方法なんですが、それは「運動」です!

はじめに

今回は、がんに対する免疫システムを活性化して、がんの成長を抑えたり、標準治療の効果を高める可能性が示された、ある「方法」についてのお話です。

免疫チェックポイント阻害薬の登場によって、もともと人に備わっている「免疫システム」を活性化することで、がんの治療効果が高まるということが、あらためて認識されました。

ごく最近、報告された研究では、このがんに対する免疫システムを活性化する新しいメカニズムが明らかになったということです。

じつは、ごく簡単な方法なんですが、それは「運動」です!

がんに対する運動の効果

わたしは、以前から、がん患者さんには、運動(有酸素運動と筋トレ)をおすすめしています。

これには、きちんとした根拠があって、がんの診断後に運動することによって、がんの再発が減って、生存率が高まることが、多くの観察研究から示されています。

たとえば、大腸がんの患者さんを対象とした研究では、がんの診断後に運動量が多い人のほうが、少ない人に比べて、生存期間が長くなっていて、死亡リスクが50%以上も低下していたということです。

こういったエビデンスに基づいて、アメリカ対がん協会(ACS)や米国臨床腫瘍学会(ASCO)の最新のガイドラインでも、がん患者さんには、治療中にも定期的に運動をすることを推奨しています。

そして今回、運動によって、がんに対する免疫システムが活性化されて、がんの成長を抑えたり、標準治療の効果が高まる新たなメカニズムが明らかになりました。

運動による免疫システムの活性化

2022年5月に、Cancer Cell という雑誌に報告された論文です。

タイトルは、「運動が、インターロイキン-15の作用を介して、膵がんに対する免疫を活性化する」というものです。

この研究では、おもにマウスを使った実験で、運動が膵がんの成長や免疫療法などの治療にあたえる影響をくわしく調べています。

まず、マウスを強制的にトレッドミルでランニングさせるという、有酸素運動モデルをつくりました。

比較的ゆっくりのスピードで、1日30分を週5回ということで、人に当てはめても「軽い程度の有酸素運動」との位置づけです。

このモデルで、マウスに膵がんを移植して、有酸素運動の効果をみたところ、運動しなかったマウスに比べて、運動したマウスでは、20~30%もがんが小さくなっていました

では、なぜ運動でがんが小さくなったのか、というメカニズムを調べるために、次に、がんの内部のリンパ球を調べました。

その結果、運動したマウスのがんの中には、がんと戦う免疫細胞の要である、CD8陽性のいわゆる「キラーT細胞」が増えていたということです。

つまり、運動することで、がんに攻撃をしかける免疫細胞がたくさん集まっていた、ということです。

また、この現象を、実際に人の膵がんでも確認しています。

膵がんの患者さんに手術前に有酸素運動をしてもらう臨床試験があったんですが、その患者さんのがんの組織と、ふつうに過ごしてもらった膵がんの患者さんのがんの組織をくらべてみると、たしかに、運動をしたがん患者さんのがんには、CD8陽性のT細胞が多く存在していた、とのことです。

さらにくわしく調べると、この運動による免疫細胞の活性化には、インターロイキン-15のはたらきが必要であった、とのことです。

というわけで、運動だけでも、がんの成長が抑制されるのですが、この研究では、運動によって、免疫チェックポイント阻害薬の効果もさらに高まるのではないか、という実験も行っています。

結果は、予想通り、運動によって免疫チェックポイント阻害薬の効果が高まって、がんがより小さくなっていました。

これは、運動によって、まずT細胞をがんに集めて、さらに、チェックポイント阻害薬で、がんによる免疫のブレーキをはずすことで、「T細胞のがんへの攻撃力を最大限に高める」という治療戦略です。

また、面白いのは、運動によって、がんにT細胞があつまるために必要だったインターロイキン-15を活性化する薬剤であるスーパーアゴニスト(NIZ985)で治療すると、運動したのと同じように、がんが縮小することが分かりました。

このNIZ985という薬は、現在、じつは海外で、がん患者さんに臨床試験が開始されていて、もし効果が確認されれば、将来的には、この薬を使えば、運動しなくても(あるいは、運動ができない患者さんでも)、運動と同じような抗腫瘍効果が得られるかもしれません。

まとめ

というわけで、以上まとめますと、マウスの膵がんモデルでの実験では、有酸素運動をすると、インターロイキン-15のはたらきを介して、キラーT細胞ががんにより多く集まることで、がんの成長が抑制され、さらに、免疫チェックポイント阻害薬の効果が高まることが確認されました

この結果は、ガイドラインでも推奨されている、がん患者さんの治療中の運動の重要性を裏付けるもので、今後、どういった運動がいいのか、といったことも含めて、さらに研究がすすむことが期待されます。

 

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外科医(産業医科大学第1外科講師)/がん研究者/YouTube「がん情報チャンネル」登録者2万人突破!/著書に『ガンとわかったら読む本』『がんが治る人 治らない人』『がんにならないシンプルな習慣』など。がん患者さんと家族に役立つ情報を発信します。
  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

外科医(産業医科大学第1外科講師)/がん研究者/YouTube「がん情報チャンネル」登録者2万人突破!/著書に『ガンとわかったら読む本』『がんが治る人 治らない人』『がんにならないシンプルな習慣』など。がん患者さんと家族に役立つ情報を発信します。

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