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「がん」になりかけても30%は消える?「前癌病変」の発がん阻止への免疫細胞の関与

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がんになる前段階の病変(前癌病変)の一部は、がんにならずに、自然に退縮(消失)することがわかっています。では、がんになる、ならない前がん病変の違いはなんでしょうか?運命を分けるメカニズムについての研究を紹介します。

はじめに

がんは、ある日突然、いきなり出来るのではなく、多くの場合、「多段階発がん」といって、まずは、がんになる前の病変(前がん病変)ができて、それが、徐々に進行して、最終的に、がんになると考えられています。

じっさいに、色々な臓器には、がんになる前段階のあやしい病変ができています。

顕微鏡検査では「異形成」や「腺腫」などと呼ばれている病変です。

これは、有名な大腸の多段階発がんのモデルですが、正常粘膜から、腺腫(せんしゅ)と呼ばれる前がん病変ができます。そして、この腺腫が成長して、がん(正確には、浸潤がん)になると考えられています。

ただ、当然、この発がんへの経路は、一方通行なのか?という疑問があります。

じつは、この「前がん病変」のうち、すべてが、がんになるわけではありません。

実際に、一部の前がん病変は、それ以上、進行しなかったり、あるいは、自然に消えることが確認されています。

では、がんになる「前がん病変」と、がんにならずに自然に消失する「前がん病変」では、なにが違うのでしょうか?

この違いがわかれば、治療が必要な前がん病変の診断、あるいは、「前がん病変」があっても、がんにならないようにする方法の開発につながる可能性があります。

というわけで、この、がんになる・ならない「前がん病変」の違いを調べた研究を紹介します。

がんになる、ならない前がん病変の違い

まずは、2019年にNature Medicineという雑誌に報告された論文です。

「扁平上皮がん」というタイプの肺がんの前がん病変を観察した研究です。

気管支鏡検査で発見された前がん病変に対して、4ヶ月おきに、気管支鏡による観察と、生検(組織を採取する検査)を繰り返しました。

そして、前がん病変が経過観察中にどうなったかと、その組織を使った、色々な検査の結果と照らし合わせました。

まず、前がん病変の経過をみたところ、50%の病変は進行してがんになったため、治療を行ったとのことです。

一方で、20%は前がん病変のままで変化なく、なんと残りの30%は退縮(消失)して、正常へともどっていたとのことです

つまり、すべての前がん病変ががんになるわけではなく、自然に消えてしまう病変もあるということです。

では、何が原因で、がんになるか、ならないかの運命が分かれるのでしょうか?

この研究では、前がん病変の組織を使って、遺伝子変異、DNAメチル化異常、遺伝子発現のパターンの解析を行っています。

その結果、がんに進行する前がん病変には、特徴的な遺伝子変異やメチル化異常がみられたとのことです。

例えば、がんになった病変には、染色体不安定性に関連した遺伝子の発現が高かったということです。染色体不安定性とは、細胞分裂のたびに遺伝子変異が起こりやすい状態のことです。

これは、予想通りの結果で、やはり、特定の遺伝子変異やメチル化の異常が、がん化に大きく関わっているという証拠です。

ただ、これだけではありません。さらに、別の研究として、前がん病変と免疫との関係を調査しています。

こちらは、2020年にCancer Discoveryという雑誌に報告された論文です。

この研究では、特殊な染色法をつかって、先ほどの前がん病変の中および周囲の免疫細胞を調べました。

その結果、がんに進行した前がん病変と比べて、消失した前がん病変では、リンパ球、なかでも、CD8陽性のいわゆるキラーT細胞(がんを攻撃するリンパ球)が集まっていたということです。

つまり、がんに進行せずに消失した「前がん病変」では、がんと戦う免疫細胞が多く集まっていたということで、免疫によるがん抑制効果が強く発揮されたということがうかがえます。

ですから、がんになるか・ならいかを決める因子は、前がん病変の遺伝子異常の状態だけでなく、宿主(患者さん)の免疫の状態も関係しているという結論です。

まとめ

肺の前がん病変を調べた結果、がんにならない前がん病変があり、がんになる前がん病変とは、遺伝子やメチル化異常の違いに加えて、病変への免疫細胞の浸潤(あつまり)の違いが関係していました

前がん病変での免疫細胞の状態を調べた研究は、これが初めてで、発がんの早い段階で、やはり、免疫が非常に重要な役割をはたしていることを示すデータです。

ただ、どうやったらがんを攻撃する免疫細胞が、前がん病変にたくさん集まるか、集める方法については、まだわかっていません。

免疫のシステムは非常に複雑ですので、単純に、からだの免疫力を上げれば、がんにリンパ球が集まる、というわけではありません。

ただ、今後、そういった方法が開発されれば、がんを防いだり、あるいは、がんの治療に役立つ可能性があります。

 

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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

外科医(産業医科大学第1外科講師)/がん研究者/YouTube「がん情報チャンネル」登録者2万人突破!/著書に『ガンとわかったら読む本』『がんが治る人 治らない人』『がんにならないシンプルな習慣』など。がん患者さんと家族に役立つ情報を発信します。

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