肺がんは、日本におけるがん死亡者数の第1位をしめる予後不良のがんです。
また、肺がん患者は年々増加しております。
最近では分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤の導入によって、進行した肺がん(非小細胞肺がん)の治療の選択肢は増えました。
しかしながら、やはり肺がんに対する手術の基本は手術です。
一方で、肺がんの患者さんは、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの呼吸器疾患を抱えていることも多く、手術後には肺炎など合併症のリスクが高くなるため注意が必要です。
そこで、海外の施設を中心に、手術の合併症を減らす目的で、手術前からの運動を中心としたプレハビリテーション(準備)が導入されるようになりました。
今回、肺がん患者を対象としたプレハビリテーションの研究結果を総合的に解析した論文が報告されました。
肺がん患者のプレハビリテーション(手術前の運動):システマティックレビューとメタ解析
この論文では、過去に報告された肺がん(非小細胞肺がん)患者を対象としたプレハビリテーションについての研究を集め、総合的な解析(システマティックレビューとメタ解析)を行いました。
最終的に、10のランダム化比較試験に参加した計676人の患者について解析しました。
このうち、術前のプレハビリテーションのプログラムとして取り入れていた取り入れていたメニューは、
- 有酸素運動+呼吸筋のトレーニング(5つの試験)
- 有酸素運動+筋力トレーニング+呼吸筋のトレーニング(2つの試験)
- 有酸素運動+筋力トレーニング(1つの試験)
- 複合的トレーニング(1つの試験)
- 有酸素運動のみ(1つの試験)
という内訳でした。
解析の結果、これらのプレハビリテーション群では、歩行能力(6分間歩行距離)、最大運動能力が改善し、術後の呼吸器関連の合併症が50%も減少していたという結果でした。
この結果より、肺がんの術前には、有酸素運動、筋トレ、および呼吸筋の訓練を組み合わせたプレハビリテーション(週に1~3セッションを1~4週間)を実施することが推奨されるという結論です。
自宅でもできるプレハビリテーション
今回の新型コロナウイルス感染拡大の影響で、病院でプログラムとして実施することがきわめて難しくなっています。
おそらく、ほとんどの病院では、術前の運動などについてくわしく指導されることはないと思います。
ただ、プレハビリテーション(あるいは、それに準じたメニュー)は、基本的には自宅で実施することが可能です。
具体的なプレハビリテーションの方法については、こちらをご覧ください。
『がん手術を成功にみちびくプレハビリテーション:専門医が語る がんとわかってから始められる7つのこと(大月書店)』
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