膵臓がんの手術(膵切除)は、からだへの負担(侵襲:しんしゅう)が大きく、術後の合併症も多いのが特徴です。
たとえば、膵臓の頭部のがんに対する標準的な手術である膵頭十二指腸切除術では、手術に関連した死亡率が3%にものぼることが報告されています。
また、膵液が漏れたり、胃の動きが一時的に悪化する合併症(胃排出遅延)も多く、入院期間が長引く原因となります。
術後の後遺症に悩まされる患者さんも少なからずいらっしゃいます。
このような合併症・後遺症を減らすべく、手術の手技や術後管理を含めた様々な工夫や対策が試みられています。
このうち、術前からのリハビリテーション(準備)であるプレハビリテーションもその1つです。
多くの研究結果より、術前からの運動、栄養指導、精神的ケアなどから構成されるプレハビリテーションを行うことで、術後の合併症が減るなど、手術の成績が向上することが示されています。
私自身、膵臓がん患者さんには、術前から自宅で筋トレなどを積極的にしてもらうように指導していますが、実際に膵臓がんの手術前のプレハビリテーションの安全性や有効性は確立されていません。
これまでに実施された膵臓がん患者を対象としたプレハビリテーションの研究は少ないものの、その数は徐々に増加しています。
今回は、膵臓がん手術のプレハビリテーションについての効果を検討した論文を紹介します。
膵臓がん手術前のプレハビリテーション:システマティックレビュー(総合的解析)
この研究では、過去に報告された膵臓がん患者を対象としたプレハビリテーションについての研究を集め、総合的に解析しました。
最終的に6つの研究から193人の膵臓がん患者さんについて解析しました。
このうち3つの研究では、術前の抗がん剤治療を受けている患者を対象にしていました。
がんの診断から手術までの期間は研究によって異なり、2週間~22週間まででした。
運動の種類もさまざまで、有酸素運動(30分~1時間)とレジスタンス運動(筋トレ)を組み合わせたものと、有酸素運動のみのプログラムがありました。2つの研究では、プロの指導のもとに運動をしてもらい、残りの4つの研究では、指導なしの運動のプログラムを実施していました。
栄養指導(サプリメント)は2つの研究で実施されていました。
結果
- 全ての研究において、プレハビリテーションによって筋肉量および筋力が改善していました。
- 1つの研究では、プレハビリテーションによって術後合併症である胃排出遅延の頻度が低下していました。
- 1つの研究では、プレハビリテーションによって入院期間が短縮していました。
以上の結果より、研究自体も少なく、また規模も小さいのですが、膵臓がん手術前のプレハビリテーションによって、合併症が減る可能性が示されています。
膵臓がん患者におけるプレハビリテーションの有効性を確認するには、今後、大規模なランダム化比較試験による検討が必要であると考えられます。
まとめ
膵臓がんの手術前のプレハビリテーションの有効性についての論文を紹介しました。
一部の研究では、合併症が減り、入院期間の短縮といった効果が示されていました。
ただ、「プレハビリテーションがどのような患者さんに必要か?」、「どんなプレハビリテーションのプログラムが理想的か?」などの問題を解決するためには、今後のさらなる検討が必要です。
この記事の内容は、『がん手術を成功にみちびくプレハビリテーション:専門医が語る がんとわかってから始められる7つのこと(大月書店)』をもとに執筆しています。
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