老化を防ぐ作用で「若返りのくすり」として話題になっているNMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)サプリメントですが、がんに対する影響はあるのでしょうか?調べてみました。
はじめに
最近、老化を防ぐ作用で「若返りのくすり」として話題になっているNMNサプリメントですが、じっさいにアンチエイジングの目的で飲んでいる人もいると思います。
このNMNは老化と関係しているわけですが、はたして、老化現象の一つとも言われている「がん」との関係はあるのでしょうか?
NMNとは?
NMNとは、ニコチンアミド・モノヌクレオチドの略で、老化を制御する効果が注目されている成分です。
最近では、サプリメントを中心に製品化が進められ、たくさんのメーカーから販売されています。
NMNは、体内で、NAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)という補酵素に変換されます。
このNADは、細胞内のミトコンドリアにおけるATPというエネルギーの産生に欠かせない補酵素であると同時に、長寿遺伝子と呼ばれるサーチュインを活性化させることがわかっています。
つまり、NMNの摂取によって、このサーチュインが活性化されることで、老化を防いで、寿命を延ばすことが可能なのでは?と考えられています。
このNMNを用いた人での臨床試験が、2021年(昨年)にScienceに報告されましたが、肥満の糖尿病の予備軍の女性にNMNを摂取してもらったところ、骨格筋におけるインスリン感受性が高まり、糖の取り込み機能が改善したということです。
まだ、これが糖尿病の予防や治療にどう役に立つのかはわかっていませんが、実際にNMNのサプリメントの効果が証明された人でのエビデンスとして重要視されています。
NMNとがんとの関係
さて、そんなNMNですが、がんとの関係はあるのでしょうか?
まずは、がん患者さんを対象としたNMNの臨床研究はもちろんありません。
次に、細胞や動物実験の研究論文を調べてみたところ、NMNががんを抑制する、あるいは、逆にがんを進行させるといった報告は見当たりませんでした。
ですので、現時点では、がんと関係があるかどうかは不明ということです。
ただ、ひとつ、がんと関連して、NMNが抗がん剤の副作用である「認知機能の低下」を防ぐ可能性があるという興味深い研究がありましたので、紹介します。
昨年2021年にCancer Resという雑誌に報告された論文です。
この研究では、マウスにがんを移植して、シスプラチンという抗がん剤で治療するモデルを使って、「認知機能の障害」に対するNMNの効果を調べました。
じつは、抗がん剤の副作用のひとつに、認知機能障害があり、別名「ケモブレイン」とも呼ばれています。
具体的には、抗がん剤治療を続けていると、記憶、言語、集中力、作業能力などの脳のはたらき(認知機能)が低下するという副作用です。たとえば、代表的なものとして、物忘れがひどくなるといった症状です。
このケモブレインは、じつは生活に支障をきたすこともある無視できない副作用で、抗がん剤治療を受けたがんサバイバーの70%が何らかの認知症状を訴えるという報告もあります。
ケモブレインの原因はまだ解明されていませんが、抗がん剤による脳の構造変化、神経の炎症、あるいは神経再生の障害などのメカニズムが考えられています。
この研究では、NMNを投与したマウスでは、ケモブレインの症状が軽くなっていたということです。つまり、NMNに神経を保護する作用があり、抗がん剤(シスプラチン)による認知機能の障害を防ぐことができたという結果です。
そして、気になるところですが、がんの成長に与える影響はあったのでしょうか?
この研究では、NMNのがんの増殖との関係についても調べていますが、結果、NMNは、がんの成長や、抗がん剤によるがんの抑制作用に影響を与えなかったということです。
というわけで、この研究では、NMNは、がんの成長には影響を及ぼすことなく、抗がん剤による副作用ケモブレインの症状を軽くしたという結果でした。
まとめ
まだ動物実験でのデータにすぎませんが、今後、NMNに限らず、NAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)を増やす治療によって、この副作用を防ぐことができるかもしれません。
以上、話題のNMNとがんとの関係はあるのか?というお話でした。
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