今回は、脂質異常症(高脂血症、高コレステロール血症)の薬が、がん患者さんの予後に影響する、というお話をします。
前回、糖尿病の薬であるメトホルミンが、一部のがんの生存率の改善と関係しているということをお伝えしました。
今回は、よくみられる慢性疾患である脂質異常症の薬とがん生存率との関係についての研究結果を紹介します。
脂質異常症とは?
脂質の異常には、いわゆる「悪玉コレステロール」と呼ばれているLDLコレステロール、「善玉コレステロール」と呼ばれているHDLコレステロール、そして、中性脂肪(トリグリセライド)の異常があります。
これらはいずれも、動脈硬化の促進と関連しますので、生活習慣の改善や薬による治療が行われます。
脂質異常症の薬には、色々ありますが、代表的な薬にスタチンというのがあります。
脂質異常症の薬スタチン
このスタチンには、さらに何々スタチン(たとえば、ロスバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチンなど)という、いくつかの種類があります。
これらは、すべてHMG-CoA還元酵素の働きを阻害することによって、血液中のコレステロール値を低下させる薬です。
商品名は、聞いたことがある名前もあると思いますが、クレストール、リバロ、リピトール、ローコール、リポバス、メバロチン、メバコールなどです。
これらのスタチン系の薬は、じつは、がんの生存率の上昇と関係しているという研究結果がたくさん報告されています。
つまり、がん患者さんのなかで、(たまたま脂質異常症に対して)スタチンをがんの診断前や診断後に飲んでいる人は、スタチンを飲んでいない人に比べて、長生きするということです。
スタチンとがんの生存率
まず、2017年に報告された、がん患者さん全体(様々な種類のがん)でのメタ解析を紹介します。
過去に報告された55件の研究をまとめて解析したところ、スタチンを飲んでいるがん患者さんは、飲んでいないがん患者さんに比べ、すべての死因による死亡リスクが30%低下しており、がんによる死亡リスクは40%も低下していたということです。
同時に、死亡率だけでなく、がんが再発または進行するリスクも低下していたということです。
しかも、がんの診断前にスタチンを飲んでいた患者さんよりも、がんの診断後にスタチンを飲んでいた患者さんのほうが、より生存率が高かったということです。
また、がんの種類別の研究では、これまでに、色々な種類のがんで研究報告があるんですが、スタチンを飲むことで生存率が改善する可能性が示されているがんの種類には、乳がん(トリプルネガティブ乳がん)、 胃がん、大腸がん、 膵臓がん、 肝臓がん、 子宮頸がん、 前立腺がん、などがあります。
これらのがんでは、スタチンを飲むことで死亡リスクが、最大で50%も低下していました。
スタチンがなぜがんを抑制するのか?
では、なぜ、スタチンで、がん患者さんの生存率が高くなるのでしょうか?
研究によると、スタチンには、脂質異常を改善する効果に加えて、がん細胞を細胞死(アポトーシスやフェロトーシス)、オートファジーを調節する作用、さらに、がん細胞のまわりの環境(微少環境)を標的にして、がんを抑制する作用があるということがわかってきました。
というわけで、最近では、スタチンを、抗がん剤などの標準治療と併用して、効果を調べる臨床試験が世界中で行われています。
まとめ
脂質異常症の治療薬であるスタチンは、がん患者にとって予後を改善する可能性のあるくすりであるということ。
そして、脂質異常症のあるがん患者では、スタチンを飲むメリットがあると考えられています。
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