がんは、もちろん若い人にもみられますが、一般的には高齢者に多い病気です。では、歳をとると、なぜがんが増えるのでしょうか?今回は、高齢者にがんが急増するおもな理由を3つあげて解説します。
はじめに
がんは、もちろん若い人にもみられますが、一般的には高齢者に多い病気です。
すべての種類のがんの年齢別発症率では、男女ともに、60歳から急増していることがわかります。
では、なぜ、歳をとると、がんが増えるのでしょうか?
今回は、高齢者にがんが急増するおもな理由を3つあげて解説します。
高齢者にがんが急増する理由
1.DNA複製エラーの増加
がんの原因のひとつに、DNAの複製エラーがあります。
つまり、細胞が分裂するたびに、一定の確率で、DNAの複製エラーがおこっています。
加齢とともに、からだの色々な細胞の分裂回数は増えていきますので、それにともなってDNAの複製エラーの回数が増えると考えられます。
同時に、加齢にともなって、DNAの損傷を引き起こす紫外線、食べものの中の発がん物質、環境中の化学物質などに曝露される機会が増えていきますので、DNAの複製エラーがおこりやすくなります。
多くの場合、DNAの複製エラーがおこっても、タンパク質の設計図に影響しなかったり、エラーが修復されたり、あるいは細胞が自殺することで、がんにならないわけです。
ところが、複製エラーの回数が増えていくと、こういったがんを防ぐメカニズムをすり抜けて、がん細胞が増えていく可能性が高くなります。
ですので、高齢者では、がんになるリスクが高くなるというわけです。
2.免疫老化
2つめの理由は、加齢とともに免疫機能が低下する「免疫老化」です。
免疫機能は、40歳をさかいに、徐々に低下していき、60歳をこえると、さらに低下してしまいます。
免疫は、身体にもともと備わっている「自然免疫」と、生まれてから獲得する「獲得免疫」があります。
このうち、獲得免疫は、高齢になると、特に著しく低下すると言われています。
これは、獲得免疫において重要な役割を果たす細胞の一つ「T細胞」の供給減少や機能低下が原因と考えられています。
T細胞は胸腺という組織で作られますが、20歳をすぎると胸腺は急速に萎縮するために、新しいT細胞の供給が減ってしまいます。
また、T細胞は、分裂できる回数が限られていて、限界近くまで分裂した細胞は機能が衰えてしまいます。つまり、T細胞も歳をとるということです。
T細胞は、がん化を防ぐために、なくてはならない免疫細胞ですので、加齢にともなうT細胞の機能低下は、がんのリスクを高める大きな要因となります。
3.老化細胞による炎症
ひとの体を構成する細胞は、加齢とともに「細胞老化」をおこします。
老化のシグナルが入った細胞は、分裂しなくなるため、増えなくなります。
ところが、この老化細胞がたまっていくと、さまざまな炎症性タンパク質を周囲に分泌します。この現象を、SASP(細胞老化関連分泌現象)といいます。
このため、老化細胞が増えると、周囲の組織に炎症がおこり、発がんのリスクを高める結果につながります。
まとめ
以上、高齢者にがんが増えるおもな理由3つは、
- DNA複製エラーの増加
- 免疫老化
- 老化細胞による炎症
でした。
このうち、偶然のDNAの複製エラーは防ぎようがありませんが、免疫の老化は、たとえば、摂取カロリーを通常の70~80%に制限することや、適度に運動することで、ある程度、防ぐことができるといわれています。
また、3つめの老化細胞による炎症については、将来、取り除けるようになる可能性があります。
東京大学教授の中西先生の研究グループは、老化細胞が生存するためには、GLS-1という酵素が必要であることを発見しました。
そこで、GLS-1をブロックする薬(GLS-1阻害剤)で、老化細胞を殺して除去することができれば、老化にともなう様々な障害や病気を予防あるいは治療できる可能性があると述べています。
このGLS-1阻害剤は、老化を治療する夢のくすりとして話題になっています。もしかしたら、将来的に、このGLS-1阻害剤が、老化を予防したり治療するだけでなく、高齢者におけるがんのリスクを減らす「がんの予防薬」になるかもしれません。
というわけで、老化にともなうがん急増の理由というお話でした。
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