抗がん剤治療について、疑問をお持ちの方も多いと思いますが、「減量しても効果があるのか?」ということについてのお話です。
はじめに
抗がん剤治療を行うときに、さまざまな理由で薬の量を減らすことがあります。
一番多いのは、副作用が強くでてしまって、次回から減量するというパターンです。
この場合、決められた量の20%、40%、あるいは、患者さんによっては、それ以上減らすこともあります。
とくに、術後に再発防止のために行う補助化学療法の場合、手術によって体力が低下していますので、100%の量で続けることが難しいケースもでてきます。
抗がん剤は、減量しても、「続けることが重要」という意見がありますが、はたして、減量しても効果があるのでしょうか?
今回は、抗がん剤の量を減らした場合の治療効果はどうなるのか、という疑問に対するひとつの答えとなる研究結果を紹介します。
抗がん剤の量を減らした場合の治療効果は?
BMC Cancer という雑誌に報告された論文です。日本の防衛医科大学の外科からの報告です。
膵がんの術後補助化学療法における、S-1(FU系の抗がん剤)という飲み薬の量と再発までの期間との関係を調査した後ろ向きの研究です。
一般的に、膵がんの場合、切除ができても再発するリスクが高いために、可能であれば術後にしばらくの期間、S-1を投与します。
この研究では、膵がんに対して、切除を受けた97人の患者さん(年齢の中央値は71歳)を対象としました。
患者さんのうち、69人(71%)はS-1による術後補助化学療法を受けましたが、28人(29%)では何らかの理由によって補助化学療法は受けませんでした。
薬のトータルの用量の62.5%を境界に、それ以上を高用量グループ、それ未満を低用量グループとしました。この62.5%という数値は、術後2年以内の再発の有無を予測するカットオフ値としてもとめたものだそうです。
比較的しっかりと投与できた高用量グループは53人(全体の55%)で、かなりの減量が必要だった低用量グループは16人(16%)でした。
この高用量グループ、低用量グループ、そして、抗がん剤なしのグループの3つのグループで、再発までの期間を比較しました。
結果
その結果、高用量グループの無再発期間(中央値)は53ヶ月で、低用量グループの20ヶ月と比較して、有意に延長していました。
一方で、抗がん剤なしのグループの無再発期間はおよそ25ヶ月ということで、低用量グループとの間に差はありませんでした。
つまり、低用量のグループ(トータルで62.5%未満)では、抗がん剤をしない場合とほぼ同じ結果だったということです。
ですので、この結果からは、ざっと60%以下に減量すると、効果が期待できないということです。ですから、続けるのであれば、やはりある程度は薬の量を保って行う必要があります。
ただ、この研究は、膵がんに対するS-1単剤による術後補助化学療法というひとつの限られたセッティングでの研究ですので、他の色々ながん種、状況、レジメンについては、当てはめることはできません。
低用量化学療法はどうなのか?
たとえば、あえて少ない量の抗がん剤を使う「低用量化学療法」という方法が一部のクリニックなどで行われていますが、その効果についての答えにはならないと考えられます。
ですので、ひとつの参考として考えていただけるといいと思います。
薬の副作用には個人差がありますので、減量は仕方ないことも多いのですが、やはり、可能であれば、高用量で続ける方がいいようです。
以上、抗がん剤は減量しても効果あるのか?というお話でした。
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