すい臓がん(膵癌)は、家族歴、つまり「家族に同じがんにかかった人がいること」が危険因子になります。今回は、家族にすい臓がん患者が1人、2人、3人以上いると、すい臓がんのリスクが何倍になるかについての最新研究を紹介します。
はじめに
最近、すい臓がんが見つかった有名人の報道を目にすることが増えてきました。
すい臓がんは、症状がでにくく、また、対策型の検診、いわゆる「すい臓がん検診」がないために、早期に発見することが難しいがんといわれています。
ですから、症状のない段階のすい臓がんを早期発見するためにはどうしたらいいのか?という研究が世界中で行われています。
ひとつの対策として、すい臓がんの危険因子を明らかにして、リスクの高い人、つまり「すい臓がんになりやすい人」を選んで検査しましょう、という提案があります。
膵臓がんの危険因子とは?
これまでに、研究でわかっているすい臓がんの危険因子としては、糖尿病、すい臓の嚢胞(液体が入った袋)、慢性膵炎、肥満、喫煙などがありますが、もうひとつ、とても重要な因子に、「すい臓がんの家族歴」があります。
これは、「家族にすい臓がんになった人がいること」ですが、具体的には、親、兄弟にすい臓がんと診断された人がひとりでもいると、あなたもすい臓がんになるリスクが高くなるということです。
ただ、これまでは、家族にすい臓がんがいると、リスクが何倍になるのかについては、後ろ向きの研究や比較的少ない人数での調査しかありませんでした。
今回、アメリカのすい臓がん患者の家族を長期間にわたって追跡した大規模な前向き研究が報告されて、すい臓がんの家族歴と、すい臓がんのリスクとの関係が明らかになりました。
家族に膵臓がんの患者がいたら、あなたのリスクは?
J Natl Cancer Inst という雑誌に報告された論文です。
私が以前、留学していた、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学に拠点をおく、すい臓がん家系などリスクの高い人の登録機関である「National Familial Pancreatic Cancer Registry」のメンバーを対象とした研究です。
全部で 4,433の家族の2万人以上のリスクの高い人を長期にわたって追跡調査を行い、すい臓がんの発症リスクを、一般の人口におけるリスクと比較しました。
すい臓がんの家系とは、正確には、第一度近親者(つまり、両親、兄弟姉妹、子ども)に一人でもすい臓がんと確定診断された人がいる家族のことです。
その結果、第一度近親者にすい臓がんと診断された人が、
- 1人いる場合には、この第一度近親者の他のメンバーにすい臓がんが発症する相対リスクが3.5倍、
- 2人いる場合には5.4倍、
- 3人以上いる場合には、なんと10.8倍になっていました。
つまり、多ければ多いほど、リスクが高くなるということです。
家族に膵臓がんの人がいたら?
では、こういった家族にすい臓がんの人がいる場合はどうしたらいいのか?ということですが、まずは、一度、腹部超音波検査を受けて欲しいと思います。
あるいは、すい臓がんを専門としている病院(ネットで調べたらわかると思いますが)に問い合わせるのもいいですね。
基本的に超音波検査は、あまり、すい臓がんの発見には感度が高くないのですが、放射線の被曝もなく体に負担が少ない検査ですし、すい臓がんの発見につながるサイン(嚢胞や主膵管の拡張)が見つかることがあります。
また、先ほど紹介したアメリカのすい臓がん家族の登録制度では、すい臓がんの早期発見を目的として、家族のメンバーに、CT、MRI、超音波内視鏡による定期的なスクリーニング検査をおこなっています。
別の論文では、これまでにスクリーニングで見つかったすい臓がんは19例もあったということで、このうち、78%がステージIという早期に発見されたということです。
もちろん、早期に発見されたすい臓がんは、予後が良いのですが、このスクリーニングで見つかったすい臓がん患者さんの5年生存率は、通常のすい臓がんでは10%以下なのに対して、73%ということでした。非常に高い生存率で、驚きですね。
リスクの高い人を対象に定期的にスクリーニング検査をくりかえすことで、すい臓がんでも早期に発見できて、長期の生存が得られるということを示した研究結果です。
というわけで、家族にすい臓がんがいたらどうする?ということですが、くりかえしますが、できれば超音波検査を受けて頂きたいということと、もし、すい臓がんの家族が二人、ないしはそれ以上いる場合には、定期的な検査について専門の病院に相談することをおすすめします。
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