「グルテン」は、小麦粉のタンパク質からできる成分ですが、体への様々な悪影響も指摘されています。とくに、グルテンに対するアレルギーで発症するセリアック病の患者さんにはがんが多いこともわかっています。では、健康な人ではどうでしょうか?グルテンでがんが増えるのでしょうか?最新の医学論文を調査してみました。
参考論文1:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33382415/
参考論文2:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34800737/
はじめに
グルテンとは、小麦粉に水を加えてこねることでできる成分のことです。
小麦粉には「グルテニン」と「グリアジン」という2種類のたんぱく質が含まれていて、水をすうことで網目状に絡み合って「グルテン」に変化します。
グルテンは、小麦粉を使用している、パン、パスタ、うどん、ピザ、ドーナツ、クッキー、ケーキなどの多くの食品に含まれています。
また、意外なところでは、カレーのルウ、シチュー、ハンバーグ、餃子、ソースなどにも小麦が使われています。
このように、グルテンは、ふだんよく口にする食べ物に入っている成分ですが、体への様々な悪影響も指摘されています。
有名なのは、グルテンによるアレルギー症状です。アトピー性皮膚炎や喘息の原因となることもありますし、セリアック病と呼ばれる病気を引き起こすこともあります。
セリアック病は、グルテンに対して異常な免疫反応が生じることで、自分自身の小腸粘膜を誤って攻撃してしまう自己免疫疾患の一つです。
このセリアック病の患者さんがグルテンを摂取すると、腸の粘膜が攻撃されて炎症がおこるため、がんになるリスクが増えることがわかっています。
じっさいに、セリアック病の患者さんには、小腸のリンパ腫や、消化管の他のがんも多いといわれています。
一方で、セリアック病がない人ではどうなのでしょうか?同じように、グルテンでがんのリスクが増えるのでしょうか?
今回は、グルテン摂取とがんとの関係についての最新の研究を2つ紹介します。
グルテンの摂取とがんとの関係
まず一つ目は、2021年3月にJournal of Nutritionという雑誌に報告された論文です。
イギリスのUKバイオバンクという健康情報のデータバンクに登録されている、およそ16万人の国民を対象とした大規模な前向き研究になります。
食事のアンケート調査から、グルテンの摂取量を計算しました。
その後、平均11年にわたって追跡調査をおこない、すべての原因による死亡、がんによる死亡との関係を調べました。
その結果、グルテンの摂取量とすべての原因による死亡、および、がんによる死亡との関係はありませんでした。
つまり、グルテンを多く摂取しても、死亡リスクが高くなるということはなかったということです。
2番目は、今年の11月にClinical Gastroenterology and Hepatologyという雑誌に報告された論文です。
この研究では、アメリカの3つの大規模な前向きコホート研究の対象者をまとめた研究で、グルテンの摂取量と消化管のがん発症率との関係を調査しました。
結果ですが、グルテンの摂取量と消化管のがんの発症リスクとの間に関係を認めなかったということです。
部位別にも、グルテンと、口腔がん、咽頭・喉頭がん、食道癌、胃がん、小腸がん、大腸癌、すい臓がん、胆嚢がん、および肝臓がんのリスクとは関係を認めませんでした。
したがって、これらの研究結果からは、セリアック病のない人では、グルテンを多く摂取することで、がんのリスクが増えることはないという結論です。
まとめ
最近では、グルテンの体への悪影響がクローズアップされ、グルテンを摂取しないグルテンフリーという食事法が流行しています。
実際に、グルテンフリーダイエットでアレルギーの症状や原因不明の倦怠感などが改善したという報告もあります。
あの有名なテニスプレイヤーのジョコビッチも、グルテンをやめてパフォーマンスが向上したということです。
ただ、グルテンにアレルギーのない人では、健康を増進したり、がんを予防するといった観点からは、グルテンを制限するダイエットは、あまり意味がないと考えられます。
というわけで、今回は、グルテンでがんが増えるのか?というお話でした。
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