がんの生存率に影響する因子(要因)には、がんの種類やステージ、悪性度、患者さんの年齢や体力、免疫の状態などがありますが、他にも、おどろくような意外なものがあります。今回は、研究から明らかになった、がん患者の生存期間を左右する意外すぎる因子を3つ紹介します。
はじめに
がんの生存率に影響する因子(要因)については、どういったものがあるかご存じですか?
パッと思いつくものには、がんの種類やステージ、悪性度、患者さんの年齢や体力、免疫の状態などがありますね。
その他、以前の動画では、がん診断後の運動や食事内容によっても、生存率が変わってくるということを紹介しました。
こういった因子というのは、理由もわかりやすいですし、生存率に影響する因子として理解しやすいと思います。
ところが、こういった代表的な因子の他にも、がんの生存率に影響を与える意外なものがあるんです。
今回は、研究から明らかになった、がん生存を左右する意外な因子を3つ紹介します。
がん患者の生存期間を左右する意外すぎる因子
1.配偶者(パートナー)の有無
これはどういうことかといいますと、がんと診断された患者さんに配偶者(あるいはパートナー)がいる場合、独身の患者さんに比べて予後が良い、つまり、長生きする傾向があることが明らかとなっています。
配偶者の有無とがん全体の生存率との関係を調査した研究を紹介します。
2013年にJ Clin Oncol. という雑誌に報告された論文です。
この研究では、アメリカのデータベースに登録された様々な部位のがん患者70万人以上を対象とし、配偶者の有無と治療経過(死亡率)の関連を調べました。
がんの種類としては、肺がん、大腸がん、乳がん、膵臓がん、前立腺がん、肝臓・胆管がん、非ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、卵巣がん、食道がん、でした。
その結果、配偶者のいる患者では、配偶者のいない患者に比べ、がんによる死亡率が20%も低いことが分かりました。
とくに、配偶者の有無が死亡率にあたえる影響は、女性よりも男性患者で大きくなっていました。
この他にも、配偶者(パートナー)の有無が、がんの生存率に影響するという研究結果がたくさんあります。
このグラフは、先ほどとは別の研究になりますが、大腸がんの切除をうけた患者さんの生存率を、配偶者がいるかどうかで比較したものです。
配偶者がいる患者さんのほうが、独身の患者さんに比べて、長期にわたって生存期間が延長していました。
というわけで、がん生存を左右する意外な因子として、まずは配偶者の有無でした。
2.血液型
これはちょっと驚くかもしれませんが、血液型によって、がんの生存率に差があるという研究結果があります。
たとえば、血液型は、膵臓がんの生存期間に影響することが日本からも報告されています。
今年の4月に J Hepatobiliary Pancreat Sci という雑誌に報告された論文で、静岡がんセンターでの研究になります。
外科的切除を行った膵臓がんの患者さん510人について、ABO血液型と生存率との関係を解析しました。
その結果、O型の患者さんでは、O型以外の患者さんに比べて、生存期間が有意に長くなっていました。5年生存率は、O型以外の患者さんでは30.5%でしたが、O型の患者さんでは46.6%でした。
ただ、これはすい臓がんの場合で、全てのがんでO型の患者さんが長生きするというわけではなく、がんの種類によって変わってきます。
ただ、血液型に関しては、どうしようもないことですし、不安になるかたもいらっしゃると思います。ですから、こんな研究結果もあるんだ、くらいに考えていただければと思います。
3.性格(楽天的か悲観的か)
そして、最後は、性格です。
これは、具体的には、その人の物事に対しての考え方、ということです。
がんサバイバーを対象とし、患者さんの性格(病気のとらえ方)と生存期間との関係を調査した研究結果を紹介します。
2018年にCancerという雑誌に報告された論文です。
がん患者(サバイバー)の治療後における精神的・心理的影響を調べる登録制のデータベース(PROFILESレジストリ)から、2457人のがんサバイバー(診断後5年未満)を対象としました。
がんの種類は、結腸がん、直腸がん、前立腺がん、子宮体がん、卵巣がん、および非ホジキンリンパ腫でした。
病気認知に関するアンケート調査の点数により、病気(がん)に対するとらえ方(考え方)を、楽天的、現実的、および悲観的の3つのグループに分類しました。
この3つのグループにおいて生活の質および生存期間(全生存率)を比較しました。
ちなみに、生存率を比較するうえで、他の生存率に影響を与える因子(年齢、性別、教育のレベル、がんのタイプ、ステージ、治療内容、持病の数など)で調節して、グループ間でこういった因子に差がないようにしました。
その結果、楽天的な人では、たとえ病気の予後(見通し)について非現実的であっても、生活の質および生存率が最も高く、現実的な人にくらべ、全ての死因による死亡リスクが約30%低くなっていました。
一方、悲観的な人では最も生存率が低く、現実的な人にくらべ、死亡リスクが50%も高いという結果でした。
というわけで、性格(楽天的か悲観的か)も、がんの生存率に影響する可能性があります。
「病は気から」と言いますが、がんについてもあてはまりそうです。
以上、がんの生存率に影響する意外な因子3つは、
1.配偶者(パートナー)の有無
2.血液型
3.性格(楽天的か悲観的)
でした。
こういう研究結果をみると、がんの生存期間は、単純にステージや転移の状態あるいは悪性度だけではなく、いろいろな複雑な因子で決まってくる可能性があるということです。
とくに、パートナーを含めた家族のサポートや、患者さんの気持ちも大事ということもわかります。
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