がんの原因(リスク要因)の一部には、生活習慣や感染といった、修正することで防ぐことが可能な原因といわれています。これらの因子をすべて除去・改善した場合に、どのくらいのがんの罹患・死亡者が防げるのでしょうか?
はじめに
がんの原因には、さまざまなものがあります。
このうち、明らかな遺伝や偶然のDNA複製エラーなど、本人にはどうしようもない原因もあるのですが、一部は、生活習慣や感染といった、防ぐことが可能な原因といわれています。
たとえば、簡単な例をあげるとしたら、喫煙ですね。当然と思われるかもしれませんが、禁煙することで、たばこに関連したがんのリスクを低下させることができます。
また、最近では、コロナ禍の影響で、運動不足や食生活の乱れ、喫煙や飲酒率が増加傾向との報告もあって、がんのリスクが高まる可能性が指摘されています。
もし、そういった、がんの原因となる生活習慣を改善して、また感染をゼロにしたら、どのくらいのがんが防げるのでしょうか?
その答えとなる研究結果が、日本から報告されました。
がんの発症や死亡はどのくらい防げる野か?日本からの研究
2022年2月にGlobal Health & Medicine という雑誌に報告された論文で、国立がん研究所 予防研究グループからの研究報告です。
まず、 これまでに日本で行われた疫学調査から、2005年頃に、予防が可能な特定のリスク要因を持つ人がどれくらいいるのかというデータを収集し、それを元に、がんのPAF (人口寄与割合)を推計したとのことです。
ここでのPAFとは、もし特定のリスク要因への曝露がまったく無かったとすると、がんの罹患(またはがんによる死亡)が何%減少するかを表わす数値です。
たとえば、能動喫煙のがん罹患のPAFが仮に20%だとすると、たばこを吸う人が全くいなかったら、日本全体で、がんの罹患が20%減るということです。
これを使って、10年後の2015年のがんの統計データから、この年に報告されたがんの罹患および死亡者がどのくらい防げたのか?を計算しました。
さて、がんの原因のうち、修正可能な因子(英語では、modifiable factor)をすべてあげると、
1.喫煙(能動喫煙・間接喫煙):これは、理論上「曝露なし」の状態とは、一度も吸ったことがない、間接喫煙なら曝露されたことがない、ということです。
2.飲酒:曝露なしの状態とは、お酒は飲まない(禁酒)
3.過体重・肥満:全員が適正体重を維持する(BMI < 23 kg/m2)
4.身体活動:定期的に運動する
5.感染:感染がない状態
・ピロリ菌
・C型肝炎ウイルス
・B型肝炎ウイルス
・ヒトパピローマウイルス
・EBウイルス
・ヒトT細胞白血病ウイルス
6.食事
・塩分が多い食品 摂らない
・フルーツ 多く摂る
・野菜 多く摂る
・食物繊維 多く摂る
・赤肉・加工肉 減らす(< 500g/週)
その他にも、母乳で育てること、ホルモン剤の使用、大気汚染の項目がありました。
結果ですが、これらの修正可能ながんのリスク要因がすべてなかった(あるいは理想的な状態に改善された)場合には、がんの罹患リスクが36%(男性で43%、女性で25%)、がんによる死亡リスクが41%(男性で50%、女性で27%)も防げたということです。
ただ、因子別にみると、感染、喫煙、飲酒のPAFが高いのに対して、食事や運動、体形などの因子は低く、改善してもあまりがんは減らないともいえます。
まとめ
こういった因子がはたして全て修正可能かどうかについては議論がありますので、単純には結論づけることはできませんが、2015年に報告された日本人のがんのおよそ3分の1は、防ぐことが可能であったということです。
逆にいうと、防ぎようがない原因も3分の2あるわけですので、がんになった人が、自分のこれまでの生活のせいにする必要はないわけです。
ただ、がんサバイバーのかたも、あまり無理なく生活習慣の改善ができるのであれば、取り入れればいいと思いますし、がんの診断後でも、いい状態で長生きすることにつながると思います。
また、今までがんになったことがない人は、こういった情報を知っておいて損はないと思います。
もちろん聖人君子のような健康的な生活はできないわけですが、少しでもがんのリスクが減らせるのであれば、可能な範囲でやってみる価値はあると思います。
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