数日前まで元気だったがん患者さんが、急に亡くなることがあります。この予期せぬ急死(突然の死)というのは、どのくらいの割合でみられるのでしょうか?また、どんな患者さんが、急死しやすいのでしょうか?日本からの研究報告を紹介します。
はじめに
進行がんで、終末期にはいった患者さんは、死までの経過というのが、おおまかに予測できることが一般的です。
たとえば、数週間のうちに呼吸機能が徐々に悪化してきて、呼吸困難に陥って、それから数日以内には亡くなるといったパターンです。
一方で、実際のがん患者さんの死のタイミングを正確に予測することは難しいこともあって、患者さんの「急な予期せぬ死」を経験することもあります。
がん患者さんの急死というのは、われわれ医療者にとっても残念で、できれば避けたい事態なんですが、残された時間を家族と過ごしたり、何か希望を叶えたいと願っていた患者さん本人やご家族にとっても、悲しく、ショッキングな出来事となります。
今はとくに、面会制限があったり、病室に家族が付き添うことが難しくなっていますので、呼ばれて行ったらもう意識がなかったり、すでに亡くなっていたということもあるかもしれません。
こういった患者さんの急死は、ときには、ご家族のグリーフケアの障害になったり、医療者への不信感につながることさえあります。
では、実際には、こういったがん患者さんの予期せぬ急死というのは、どのくらいの割合でみられるのでしょうか?また、どんな患者さんが、急死しやすいのでしょうか?
今回は、がん患者さんの急死についての研究結果を紹介します。
がんの急死(突然の死)の割合
2021年にCancer Medという雑誌に報告された日本からの研究論文です。
日本の23の終末期医療を専門におこなうホスピスあるいは緩和病棟がある施設に入院した1896人の進行がん患者さんを対象とした、多施設での前向き集団研究です。
患者さんの平均年齢は72歳、がんの種類については様々で、消化管のがん、肝・胆・膵のがん、肺がんなどでした。
骨、脳、肺、肝臓への転移が、15~40%程度の患者さんにありました。
これらの患者さんを追跡調査して、急死の発生率を調べました。
ちなみに急死の定義は色々あるため、この研究では4つの定義を使って分類しました。
1.数日での急死:1~2日の間の急変に引き続いて全身機能が悪化して急死すること
2.驚くような急死:「死のタイミングに驚いていますか?」という質問に、医師が「はい」と答えるような急死
3.予期せぬ急死:医師が予測したよりも、早く訪れた予期せぬ死
4.全身状態(パフォーマンス・ステータス)から予測された急死:死が近くなった患者さんの全身状態の評価によって死が近いと判断されてから1週間以内の急死
結果、こういった急死の発生は、入院後1ヶ月までに、全体の患者さんのおよそ6~17%程度におこっていました。
定義別にみると、もっとも多かったのは、「数日での急死」で、入院後30日以内における累積の発生率は、16.8%でした。
つづいて、「驚くような急死」が 9.6%、「予期せぬ急死」が 9.0%、「全身状態から予測された急死」が 6.4%でした。
したがって、死をある程度予測しているホスピスや緩和病棟に入院中のがん患者さんでも、定義によって違いますが、急死の割合が6~17%もみられるということで、決して少なくないことがわかりました。
とくに、われわれ医療者がおどろくような予期せぬ急死というのが、実際に10%近くもあるということで、とても多いと感じます。
また、こういったがん患者さんの急死の直接の原因としては色々あるのですが、とくに誤嚥や窒息、肺塞栓症、消化管出血、敗血症などの感染症が多かったとのことです。
がん急死のリスクを高める因子は?
では、予期せぬ急死のリスクを高める因子というのはあるのでしょうか?つまり、「どんな患者さんが、急死しやすいか」ということです。
色々な因子と急死との関係を解析したところ、男性患者、肝臓への転移、呼吸困難、悪性の皮膚病変、そして、液体貯留(胸水や腹水)があることは、急死のリスクを高める因子だったということです。
こういったがん患者さんでは、急死する可能性が高くなるということです。
というわけで、がん患者さんの予期せぬ急死についての研究結果を紹介しました。
まとめ
がん患者さんの急死に際して、患者さんのご家族としては、「数日前までは元気だったのに、どうして?」という気持ちをもたれるのも当然だと思います。
ただ、じっさいには、こういう予期せぬ急死は少なくないということがわかります。
ですので、(言い訳のように聞こえるかもしれませんが)進行したがん患者さんには色々な不測の事態がおこって急変あるいは急死する可能性がある、ということも理解していただきたいと思います。
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