がん患者さんは何を食べるべきなのでしょうか?「何を食べてもいい」という意見の医師もいます。ただ、がん診断後の食事の質によって死亡率に大きな差がでるという研究結果もありますので、やはり長期的な視野からは、食べるものに気を遣うことは重要だと考えられます。
はじめに
今回は、がん患者さんにおける食事の重要性について、あらためてお話したいと思います。
誤解のないように最初に言っておきますが、私が言いたいのは「特定の食事療法や食品、あるいはサプリメントなどでがんが治る、がんが消える」ということではありません。
そういったことが100%ないとは言い切れませんが、食事だけでがんが治る可能性は非常に低いと考えられますし、期待しないほうがいいと思います。
じゃあ、何を食べてもいいのか?というと、必ずしもそうではないと思います。
がん患者は何を食べてもいい?
がん患者さんが、主治医に食事についてのアドバイスを求めたとき、「何を食べてもいいですよ」という答えが返ってくるかもしれません。
たしかに、手術後の回復期や、がんの症状や治療の副作用で食事がほとんどできない時には、何でもいいので、カロリーが高いものを摂取することが必要だと思います。
あるいは、がんが進行して余命数ヶ月と判断されるような差し迫った場合には、好きなものだけを食べるのも選択肢の一つでしょう。
ただ、すべてのがん患者さんに、「何を食べてもいい」あるいは「何を食べても、がん治療の結果は変わらない」とは言えませんし、ある意味、無責任な発言だといえます。
なぜなら、がん診断後の食事が、再発や生存期間に影響するという研究データ(エビデンス)があるからです。
今回は、がん患者さんにとって、診断後の食事の質が重要であることを示す研究結果を紹介します。
がん診断後の食事の質で生存率に差
2018年にJNCI Cancer Spectr. という雑誌に報告された論文です。
アメリカにおける国民健康・栄養調査(NHANES III)のデータベースから、1191人のがんと診断された人を抽出し、研究対象としました。
がんの種類は様々で、多いものは、皮膚がんや乳がんなどでした。
このデータベースでは、ふだんの食事に関する詳しいアンケート調査をもとに、複数の食べ物(栄養)の項目について点数化し、合計して健康食事インデックス(Healthy Eating Index)を算出しました。
この健康食事インデックスは、かなりおおざっぱな分類なんですが、健康的な食事として、積極的に食べたい食品としては、フルーツ(とくに皮付きフルーツ)、野菜(とくに緑黄色野菜と豆)、精白していない穀物(全粒穀物)、乳製品、タンパク質(少量の肉、卵)、魚介類、植物性タンパク質、不飽和脂肪酸です。
逆に、控えめにすべきものは、精白した穀物(白いパン、白米など)、食塩、砂糖、飽和脂肪酸です。
健康食事インデックスが高ければ、健康的な食事をしているということになり、逆に点数が低ければ、不健康な食事をしているということになります。
その後17年以上にわたって追跡調査を行い、健康食事インデックスが最も高いグループと、最も低いグループの間で、がんによる死亡率を比較しました。
その結果、健康食事インデックスが最も低いグループでは、最も高いグループと比べ、がんによる死亡率が高くなっており、長期になると、最大で2倍近くにまで上昇していました。
2つのグループ間で死亡リスクを比較したところ、健康的な食事をとることで、がんによる死亡リスクは65%も低く、また、すべての死因による死亡リスクも41%低くなっていたという結果でした。
がん診断後の食事によって、とくに長期的には、生存期間に大きな差がでるということを示す重要なデータです。
まとめ:がん患者さんに理想の食事とは?
がん患者さんも、長期的には、先ほどの健康的な食事を続けることが推奨されます。
もちろん食は人生の楽しみのひとつですので、ずっと好きな物を我慢したり、口に合わないものを食べろというわけではありません。ときには、好きな物を思いっきり食べることもいいと思います。
また、食欲低下や味覚の変化といった副作用や後遺症のため、いつも理想的な食事ができるとは限りません。食べられるものが限定される場合もあると思います。
ただ、治療が一段落して、ある程度落ち着いてきたら、食生活を見直してみましょう。とくに、がんの治療がずっと続く場合や、治療後も数年にわたって経過観察が必要な患者さんでは、長期的な視野に立って、ストレスにならない程度に、日々の食事に気を遣うことは重要だと思います。
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