がんになると、いろいろな理由で「筋肉」が減っていきます。がんに負けないためには、筋肉が減るのを防ぐ必要があります。筋肉の合成を促進し、分解を抑える「HMB(エイチエムビー)」の効果についての研究を紹介します。
はじめに
がんになると、いろいろな理由で「筋肉」が減っていきます。体重が減って、手足が細くなったがん患者さんも多いと思います。
筋肉の量が極端に減ると、筋力や身体機能が低下して、サルコペニアという「筋肉やせ」の状態になってしまうことがあります。
がんに負けないためには、筋肉が減るのを防ぐことが重要です。
なぜかというと、筋肉が減って、とくにサルコペニアになると、手術や抗がん剤などの治療がうまくいかず、生存率が低下することがわかっているからです。
そこで、筋肉の減少を防ぐために、運動(とくに筋トレ)やタンパク質の摂取を意識した食事の工夫など、患者さん自身でできることがあるのですが、それだけでは、なかなか筋肉が維持できないことも多いと思います。
筋肉を維持するための成分「HMB」
そこで、最近、注目を集めているのが、「HMB(エイチエムビー)」という成分です。
HMBとはβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(β-hydroxy-β-methylbutyrate)の略で、体内で合成できない必須アミノ酸のひとつ「ロイシン」の代謝産物のことです。
「ロイシン」に、筋肉の合成を促進する効果があることはわかっていますが、これはロイシンの摂取によって体のなかにHMBが生成されるからと考えられています。
ところが、ロイシンを摂取してもHMBが生成される量はわずか5%程度と少ないため、代謝産物であるHMBを直接摂取するほうが、より効果的であるといわれています。
最近、このHMBが、がん患者さんの筋肉の減少をふせぐサプリメントとして注目を集めています。
実際に、いくつか臨床試験がおこなわれていますが、今回、がん患者さんにおけるHMBの効果について、これまでの試験をまとめて解析した研究結果が報告されましたので、紹介します。
がん患者におけるHMBの有用性
J Cachexia Sarcopenia Muscle という雑誌に報告された論文です。
2021年12月までに報告された、がん患者を対象としたHMBの臨床試験を集めて、総合的に解析しました。
全部で15の研究を採用し、うち6つがランダム化比較試験でした。
結果ですが、まず安全性については、多くの研究で1日3グラムのHMBカルシウムを(最長で32週間にわたって)摂取していましたが、とくに、問題となる副作用はみられませんでした。
HMBの効果については、質の高い研究に限った解析では、4つの研究中すべてで筋肉量の増加が、2つの研究中2つで筋力の改善が確認されていました。
また、一部の研究では、それ以外にも、入院日数の減少、手術の合併症の減少、抗がん剤や放射線など治療に伴う副作用の軽減、そして、生存期間の延長が報告されていました。
ただし、少人数での検討がほとんどですので、今後、さらに大規模な臨床試験で、MBの効果を証明することが必要であるという結論です。
まとめ
というわけで、まだ人における臨床データは少ないですが、がん患者さんが筋肉量を維持あるいは増やすためには、ひとつの方法として、HMBの摂取を試してみてもいいと思います。
最近では、サプリメントとして、いろいろなメーカーから販売されています。
ただ、やはり基本は、運動と食事からのタンパク質摂取ですから、あくまで補助的な意味でサプリメントは考えて頂きたいと思います。
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