今回、がん患者を対象とした高濃度ビタミンC療法の臨床試験(ランダム化比較試験)が報告されました。進行した大腸がんに対して、抗がん剤の効果を高めることができるのかを解説します。
はじめに
高濃度ビタミンC療法(静脈内投与)という治療法が、一部のクリニックで保険外治療として行われています。
この治療は、ビタミンCに抗酸化作用があることから、アンチエイジングや美容効果、疲労回復効果などが期待されるとのことですが、がんにも効果があると謳っているネットの情報もあります。
実際に、アメリカでは、がんに対する代替医療のひとつとして、高濃度ビタミンC療法の臨床研究が行われています。
では、なぜ高濃度ビタミンC療法が、がんに効くと言えるのでしょうか?
高濃度ビタミンC療法の原理
理論的には、がん細胞が、糖と似た構造のビタミンCを細胞内に取り込むそうで、その際にビタミンCが酸化されて活性酸素の一種である「過酸化水素」が発生することで、がん細胞が破壊されるといわれています。
じっさいに、動物実験のレベルでは、がんを抑制したり、抗がん剤の効果を高める作用が確認されていて、とくに、KRAS遺伝子に変異があるがんに対して効果が高いということがわかっています。
一方で、人での臨床試験はほとんどなく、ビタミンC療法ががんに効くというエビデンスはありませんでした。
ちょうど1年前に、「高濃度ビタミンC療法はがんに効くのか?」という動画を紹介しましたが、このときには臨床試験がほとんどない状態でしたので、効くというエビデンスはない、という結論でした。
今回、がん患者さんを対象とした高濃度ビタミンC療法の臨床試験(しかも、より信頼度の高いランダム化比較試験)が報告されました。
がんに対する高濃度ビタミンC療法のランダム化比較試験
これは、ビタミンC療法の単独治療ではありませんが、通常の抗がん剤との併用効果を評価した試験です。
高濃度ビタミンC療法の新たなエビデンスになると考えられますので、ここで紹介したいと思います。
今年の8月に、Clin Cancer Res という雑誌に報告された論文です。
転移をみとめるステージIVの大腸がん患者442人を対象として、通常の抗がん剤治療に高濃度ビタミンC療法を併用する効果を検証するランダム化比較試験です。
FOLFOX+/-ベバシズマブのグループと、FOLFOX+/-ベバシズマブに高濃度ビタミンC療法を併用するグループに、それぞれ221人ずつランダムにわけました。
高濃度ビタミンC療法は、抗がん剤治療の開始日から3日間、体重1Kgあたり1.5gのビタミンCを静脈内に投与したということです。
結果ですが、奏効率および全生存期間において、両グループ間に差はありませんでした。
また、副作用に関しても、臨床的に問題となるグレード3以上の副作用は、ともに30%程度で、差はありませんでした。
というわけで、全体の患者さんでは、高濃度ビタミンC療法の併用効果はみられませんでした。
ところが、患者さんのがんの遺伝子検査でKRAS遺伝子変異が陽性の患者さんに限定した解析では、ビタミンC療法を併用したグループのほうが、化学療法単独のグループよりも、無増悪生存期間が延長していました。
以上の結果より、転移性大腸がん患者さんに対して、通常の抗がん剤に高濃度ビタミンC療法を併用したグループでの生存率の改善は認められませんでしたが、KRAS遺伝子変異が陽性の患者さんでは、効果が期待できる可能性があると結論づけています。
ビタミンC療法はがんの遺伝子変異限定で効く?
ビタミンCが、KRAS変異があるがんに効くという研究報告は以前からあります。
2015年にScience という科学雑誌に報告された論文では、ビタミンCが、KRASまたはBRAF遺伝子に変異がある大腸がんを選択的に殺傷するという研究結果です。培養細胞と動物実験でのデータですが、今回の臨床試験と一致する結果です。
今後は、さらに大規模な臨床試験で、KRAS遺伝子に変異がある一部のがんに対するビタミンC療法の併用効果が証明されることを期待したいと思います。
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