がん患者さんやご家族が知りたいことの一つに「あとどのくらい生きられるのか?」つまり「余命(残された時間)」があります。今回は、研究からわかった「余命を予測できる簡単な方法」を紹介します。
はじめに
がん患者さんやご家族のかたが知りたいのは、やはり、「あとどのくらい生きられるのか?」つまり「残された時間」ということだと思います。
がん患者さんの余命(生存期間)を予測する方法は色々と報告されています。
例えば、「こういった症状がでてきたら、だいたい1ヶ月以内」という症状に基づいたものや、あるいは血液検査などの数値で予測する方法などがあります。
以前の動画で、「がんの死が近いことを予測するマーカー」として、炎症のマーカーであるCRPの値を血清アルブミンで割った値が高いと90日以内に死亡するリスクが高くなる、といったデータを紹介しました。
これ以外にも、例えば好中球とリンパ球の比が、がん患者さんの生存期間を予測するマーカーになるという報告もあります。
ただ、こういったマーカーは当然、血液検査や複数の検査値を使った計算が必要ですし、もっと簡単に評価できる方法があると便利です。
そこで、今回は、2つの研究論文から、がんの余命(生存期間)を予測できる簡単な方法を紹介したいと思います。
がんの余命(生存期間)を予測できる簡単な方法「握力」
まずは2021年に、J Gastrointest Surg という雑誌に報告された論文です。
手術を受けた食道がんの患者さん175人を対象としたアメリカの病院での研究です。
手術前に、患者さんの握力を測定しました。
男性で32Kg、女性で20Kgより強ければ正常のグループ(全体の52%)、男性で26~32Kg、女性で16~20Kgを中間のグループ(25%)、男性で26Kg、女性で16Kg未満を弱いグループ(23%)に分類しました。
この3つのグループで術後の合併症や生存期間を比較しました。
その結果、握力が弱いグループでは、肺炎などの合併症が多くみられ、さらに、手術から1年後の死亡率が正常の握力のグループでは7%であったのに対して、握力が弱いグループでは、46%と非常に高くなっていました。
つまり、手術前に握力が低下していた食道がんの患者さんでは、手術から1年後に半数近くが亡くなっていたということです。
もうひとつ、今年の8月に、Nutrition という雑誌に報告された論文で、日本の徳島大学医学部で実施された研究です。
消化管および肝胆膵の様々な種類のがんに対して手術を行った480人の高齢患者さん(65歳以上)を対象とした後ろ向きの研究で、患者さんの術前の筋力と筋肉の量と術後の生存期間との関係を調査しました。
筋力は、握力計で測定し、男性で28Kg未満、女性で18Kg未満を握力の低下ありと定義しました。
その結果、がんの術前に握力が低下していると、術後の死亡リスクが、男性の場合には3倍以上、女性の場合には7倍以上にも高くなるということでした。
一方で、筋肉量の低下だけ認めた患者さんでは、死亡リスクが高くなっていませんでした。
つまり、男女ともに、筋肉量よりも筋力(握力)のほうが、生存率を予測するマーカーとして優れているということがわかりました。
以上の結果より、がん患者さんの余命(生存期間)を予測する簡単な方法として、握力を測ることが有用であるということです。
握力にはもちろん個人差はありますが、男性で30Kg以下、女性で20Kg以下の場合には注意が必要と考えられます。
また以前の動画で、握力が低下している人ではがんになりやすく、また、がんで亡くなるリスクが高くなるという研究結果を紹介しました。
この研究では、握力が5Kg低下するごとに、すべてのがんの死亡リスクが17%上昇するという結果でした。また、がんの部位別には、大腸がんで17%、肺がんで17%、乳がんで24%死亡リスクが上昇していました。
こういった結果をみると、握力が弱くなっている人では、がんになったときに治療がうまくいかないために、早く亡くなってしまうということがうかがえます。
そこで対策としては、やはり運動をすること、とくに筋力トレーニング(筋トレ)が重要です。
握力は全身の筋力のひとつの目安であって、多くの場合、握力が低下している人では、全身の筋力が低下しています。ですから、握力だけを鍛えるのではなく、全身の筋肉を鍛える必要があります。
これまでの動画でも、がんになったときに備えて筋トレを習慣にしてくださいとお伝えしてきました。
また、昨年、出版させていただいた「がんに負けないたった3つの筋トレ」でも、がん治療における筋トレの重要性を紹介しています。
しっかりと筋力を鍛えて、がんに負けないからだづくりをしましょう!
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