がんの原因には色々とありますが、生活する環境によってもがんのリスクが高まることがあります。今回は、夜間の屋外の照明と癌の発症リスクの関係についての研究を紹介します。
はじめに
がんの原因には、遺伝的素因や偶然のDNA複製エラー、食事・運動といった生活習慣など、色々なものがあることは、以前もお話しました。
研究によると、生活する環境もがんのリスクに影響することがわかっています。
たとえば、どういった場所に住んでいるかによっても、がんのリスクが変わってきます。
光害とは?
2017年に、アメリカの公衆衛生で有名なハーバード公衆衛生大学院からのプレスリリースがでました。
この記事によると、Outdoor light at night、つまり夜間の屋外の照明が、女性の乳がんのリスク増加と関連していることをハーバード大学の研究チームが明らかにした、ということです。
現代は、とくに都市部では、夜でも人工照明で明るい場所が多いのですが、この照明が人の健康や生態系に与える影響が問題となっています。
過剰な、あるいは不要な照明がもたらす悪影響のことを、光の害と書いて、光害(こうがい、ひかりがい)と呼ぶそうです。
この光害の原因となる光は、家庭や会社、コンビニエンスストアなどのお店、工場、街灯、ネオン、スポーツ場の照明など、様々なところから出されています。
夜間も経済活動が活発で、人口が密集したヨーロッパや日本などで特に深刻な問題になっています。
今回、この夜間の照明とがんとの関係について、研究を紹介したいと思います。
夜間の照明で乳がんリスクが増加?
2017年に、Environmental Health Perspectives という雑誌に報告された論文です。
アメリカの10万人以上の女性(看護師)を対象として、住んでいるところの夜間の照明の強さを、(こういう)宇宙から撮影した衛星写真のデータから算出しました。
そして、夜間の照明の強さと乳がんの発症率との関係を調べました。
当然、夜も明るい都市部に住んでいる人と、田舎に住んでいる人では、乳がんに関係している可能性がある生活習慣などに違いがあるかもしれませんので、人種、喫煙、BMI、運動量、健康的な食事の点数、乳がん検診の受診率なども調査して、こういった因子で差がでないように調節して解析しました。
その結果、住んでいるところの夜間の照明が強くなるにつれて、乳がんのリスクが高くなっていました。
最も夜間の照明が弱い地域に住んでいる女性に比べて、もっとも強い地域に住んでいる女性では、乳がんのリスクがおよそ14%高くなっていました。
夜間の照明と他のがんリスク
こういった、夜間の照明とがんとの関係は、乳がんに限らず、他の種類のがんでも報告されています。
例えば、屋外の照明が強い地域に住んでいる人は、前立腺がんや大腸がんのリスクも高くなるという報告があります。
もちろん外が明るくても、寝るときにはカーテンなどで部屋を暗くする人がほとんどだと思いますが、少なからず外の照明の影響を受けているということです。
また、屋外だけでなく、室内の照明とがんとの関係について調査した研究では、真っ暗な部屋で寝る人に比べて、明るい部屋で寝る人では、前立腺がんのリスクがおよそ2.8倍にも高くなっていたそうです。
以上、夜間の照明によって、がんのリスクが高くなるという研究結果でした。
まとめ
海外でのデータですが、日本も、夜も明るいところが多いので、がんのリスクが高くなっている可能性があります。
人間は、もともと、日が昇ると起きて、日が暮れると真っ暗になるので寝ていたわけです。
ところが、産業が活発になり、とくに都会に住む人では、夜間でも、人口照明で明るい状態が当たり前になってきました。
こういった環境の変化が、人のサーカディアンリズムに悪影響を及ぼして、自律神経やホルモンのバランスを乱すことで、がんの原因になっていると予想されます。
ですから、夜は部屋の照明をできるだけ落として暗めにするということ、寝る前はパソコンやスマートフォンなどのディスプレイからも発生するブルーライトをさけること、そして、寝るときには、外からの光を遮って部屋を暗くすることを心がけましょう。
というわけで、夜間の照明でがん増加というお話でした。
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