最新の研究によると、虫歯の原因菌として知られている「ミュータンス菌」が、肺の血管に炎症を引き起こして、その結果、がんの転移が促進されることが明らかになったということです。歯周病予防の口腔ケアが大切です!
はじめに
今回は、口のなかの「あの細菌」と、がんの転移との関係についてのお話です。
先日の北海道大学からのプレスリリースによると、むし歯の原因菌として知られている「ミュータンス菌」が、肺の血管に炎症を引き起こして、その結果、がんの転移が促進されることが研究から明らかになったということです。
口のなかの細菌が、がんの転移に影響するという驚きの結果ですが、いったい、どういったメカニズムなのでしょうか?
今回は、この研究を紹介して、口のなかの細菌とがんについての関係を解説します。
虫歯の原因菌ががん転移を促進する?
今年の8月に、Cancer Science という雑誌に報告された論文です。
北海道大学の研究チームが発見した、がんの転移を促進する新たなメカニズムについての研究です。
これまでの研究によると、口のなかにいる細菌が、歯周炎の病巣や抜歯した部位などから血液のなかに入って、全身の炎症を引き起こしていることがわかってきました。
この研究では、マウスの乳がんの血行性転移モデルを使って、むし歯の原因菌のひとつ「ストレプトコッカス ミュータンス(ミュータンス菌)」を血液中に注射して、肺への転移がどうなるかを調べました。
そうすると、このミュータンス菌が、肺の血管の壁に存在する血管内皮細胞に侵入して、炎症を引き起こすことがわかりました。
その結果、血管の壁のバリア機能が障害されて、血液中に循環するがん細胞が、血管の壁に引っ付きやすくなったり、血管の外に出ていくようになって、最終的に、肺への転移が増えたということです。
この結果から、むし歯の原因菌であるミュータンス菌が、血液のなかに浸入して、がんの転移を促進している可能性がある、と結論づけています。
歯周病とがんとの関係
過去の報告によると、歯周病のある人では、がんで死亡するリスクが30%以上も高くなることがわかっています。
とくに、歯周病は、口腔がん、肺がん、膵臓がん、大腸がんの発症リスクおよび死亡率を高めると報告されています。
これらのがんでは、むし歯や歯周病の原因となる細菌が、がんの進行を早めている可能性もあります。
したがって、歯周病を予防して口のなかを清潔に保つことは、全身の炎症およびがん転移を抑制することで、がん患者さんの生存率の向上につながることが期待されます。
歯周病をチェックしましょう!
歯周病が気になる方は、まずは、かかりつけの歯科で、歯周病かどうかをチェックしましょう。
歯周病は、多くの場合、日頃の歯みがきや歯科検診で原因となる歯垢(プラーク)や歯石を除去することで予防できます。
ですので、まずはしっかりとした歯みがき(毎食後に加え起床時、寝る前の丁寧なブラッシング)を習慣にしましょう。
歯と歯の間など、歯ブラシだけでは磨ききれない場所には、歯間ブラシやデンタルフロスを使うのもよいでしょう。
また、定期的に歯科医院(歯医者さん)を受診し、歯みがきの指導や歯石除去をしてもらいましょう。
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