第4のがん治療として広まりつつある「免疫チェックポイント阻害薬」ですが、ときにがんが急に大きくなる副作用があります。今回は、この副作用のメカニズムについての新たな研究結果を紹介します。
はじめに
2022年10月3日、このようなニュースが流れてきました。
免疫療法の副作用 原因解明 がんの治療効果に期待 という記事です。
米国立衛生研究所(NIH)の小林久隆主任研究員のグループは、免疫の力を利用してがんを攻撃する「免疫チェックポイント阻害薬」による治療の際、腫瘍が急激に大きくなる副作用が起こるのは、がんの増殖を助ける「制御性T細胞」の働きが原因だったと発表した、とのことです。
「免疫チェックポイント阻害薬」は、効果の高い免疫療法として、一部のがんで使用されるようになってきました。
一方で、効かない患者さんがいることや、この記事にもありますが、がんが急激に大きくなったり、進行してしまうケースも少なからずあることが問題となっています。
せっかく効果を期待して治療を受けたのに、効かないばかりか、逆にがんが急に成長することは非常に残念で、できれば避けたい結果です。
ですから、この原因を解明することはとても重要な課題です。
今回、小林先生らが発見した、この免疫チェックポイント阻害薬の副作用の新たなメカニズムについて、論文を紹介しながら解説します。
免疫チェックポイント阻害薬によるがん進行の原因とは?
2022年の9月に、Cancer Immunol Res という雑誌に報告された論文です。
研究グループは、がんの増殖を助ける「制御性T細胞(Treg)」に目をつけました。
この制御性T細胞ですが、過剰な免疫反応を抑制する役目があります。つまり、免疫のブレーキとして機能しています。
がんにおいては、この制御性T細胞が、がんを攻撃するT細胞の邪魔をして、がんが進行する原因になっていると考えられます。
つまり、制御性T細胞のはたらきが強い場合に免疫チェックポイント阻害薬を投与すると、がんが急成長するのではないかと考えました。
そこで、光免疫療法の手法をもちいて、マウスの腫瘍内部でがんを攻撃する免疫細胞(CD8陽性のT細胞)を減らし、制御性T細胞を活性化させました。
そこに、免疫チェックポイント阻害薬を投与したところ、およそ2~4週間で、がんがほぼ2倍の大きさまで大きくなったということです。
通常、免疫チェックポイント阻害薬によってマウスのがんは小さくなるのですが、マウスの腫瘍内部のがんを攻撃するT細胞を減らしてから免疫チェックポイント阻害薬を投与すると、がんが急に大きく成長しています。
さらに、大きくなった腫瘍のまわり(微小環境)には、がんを攻撃するT細胞が減っている一方で、制御性T細胞が増えていたということです。
以上の結果から、がんを攻撃するT細胞のはたらきが、制御性T細胞よりも強い場合には、免疫チェックポイント阻害薬が効いて、がんが小さくなる、ということですが、一方で、がんを攻撃するT細胞のはたらきが弱くなって、制御性T細胞のはたらきが優位になると、免疫チェックポイント阻害薬によってがんが急成長するというメカニズムが示されました。
ちなみに、免疫細胞の量を調整する際には、「光免疫療法」の手法を用いています。
ご存じのように、光免疫療法は、現在、頭頸部がん患者の治療に使われていますが、小林氏によると、「光免疫療法で制御性T細胞だけを減らせば、より安全で高い治療効果が期待できる」と話しているとのことです。
今後の臨床応用を期待したいと思います。
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