がん患者さんが長生きするために、食事療法、あるいは、より健康的な食べものを選択することは意味はあるのでしょうか?今回は、米国がん協会(ACS)の「がんサバイバーのための栄養と身体活動のガイドライン2022」を紹介し、推奨される食事・食べものについて解説します。
はじめに
がん患者さん、あるいは、がんを経験されたサバイバーは、日頃どういう食事をしたらいいのか、気になると思います。
ただ、すでにがんになってしまったのだから、今さら食事を変えてもしょうがないと思う方もいらっしゃるでしょう。
はたして、がん患者さんにとって、食事療法あるいは、より健康的な食べものの選択に意味はあるのでしょうか?
結論から言うと、時と場合によりますが、意味はあります。
つまり、治療が一段落したがんサバイバーの皆さんが、食事を含めた健康的な生活習慣に気を遣うことは、とくに長期的な視点から、重要だと考えます。
一方で、特定の食品を大量に摂取したり、逆に絶対に口にしないといった極端な食事療法は、意味がないだけでなく、かえって害をもたらす場合もあります。
ただ、癌患者さんの食事については、「あれを食べたらダメ」とか、「何を食べてもいい」とか色々と意見があるところです。
もちろん医師をふくむ専門家のあいだでも考え方が違いますので、色々な意見があっていいとは思います。
ただ、やはり、科学的根拠(エビデンス)に基づいたアドバイスや、きちんとした指針(ガイドライン)に沿った指導が必要だと思います。
今回の動画の内容は、最新のガイドラインに沿って、がん患者・サバイバーにとっての食事の意味を考え、推奨される食事を紹介します。
がんサバイバーのための食事のガイドライン
このたび、米国がん協会(ACS)による、がんサバイバーのための栄養と身体活動についてのガイドラインが改定されました。
このガイドラインは、2006年に初版が発行されて、2012年に改定されました。そして、10年たって、今回、新たなエビデンスが加えられて、再び改定されました。
この新しいガイドラインは、今年の3月に、CA: A Cancer Journal for Clinicians という雑誌に掲載されました(英語ですけれども、無料でダウンロードできます)。
過去の膨大な研究を総合的に解析したうえで専門家の意見が述べられていますが、非常に長い論文ですので、ここでは、みなさんにざっくりと知っていただくために、簡単にエッセンスだけを紹介します。
まず、このガイドラインで述べられている、重要なポイントを紹介したいと思います。
まず、多くの研究から得られた知見として、がん診断後の食べもの・食事スタイル、および食事によってもたらされる体型の変化が、がんサバイバーの治療経過・生存率に影響を与えるとしています。
たとえば、肥満によって、乳がん、子宮体がん、膀胱がんの治療経過(生存率)が悪化することが示されています。
また、赤肉・加工肉、高脂肪乳製品、精製された穀物、フライドポテト、お菓子、デザートをふくむ西洋型の食事スタイルは、結腸がん、乳がん、および、前立腺がんサバイバーの治療経過(生存率)を悪化させることが示されている、とのことです。
こういったエビデンスに基づいて、次に紹介する食事に関する推奨が述べられています。
一般的な食事の推奨
身体活動・運動に関する推奨もあるのですが、今回は、おもに食事に関する項目だけを抜粋します。
1.診断後できるだけ早期に栄養評価とカウンセリングを受ける
理想としては、患者さんと医療者が協力して、個々のニーズに合った栄養や身体活動のプログラムを組み立てることを推奨しています。
2.食事と身体活動で肥満を防ぎ、筋肉を維持あるいは増やす
3.必要な栄養を満たし、慢性疾患を予防するための健康的な食事パターンをおくる
4.新たながんのリスクを減らすために、一般的ながん予防のための食事と運動の指針にしたがう
これは当然で、がんを一度経験した人は、セカンドキャンサーといって、新たながんのリスクが高いことがわかっていますので、それを予防しましょう、ということです)
以上です。
これだけでは具体性に欠けますので、さらに、どういった食べものを食べるべきで、どういった食べものを控えるべきか、についても紹介します。
具体的に推奨される食べもの
まず、なるべく摂取すべき食べものです。
野菜、豆類、そして、果物です。次に、全粒穀物です(玄米や全粒粉のパン、パスタなどですね)。
反対に、控えるべき食べものとしては、赤肉(牛、豚肉)・加工肉(ベーコン、ソーセージ、ハムなどです)、加糖飲料(糖が入った飲み物のことで、具体的にはコーラやジュースですね)、超加工食品(定義はいろいろあるんですが、一般的には、レトルト食品、調理パン、カップ麺、スナック菓子(ポテとチップス)など)。
それから精製穀物です。白米や白いパンですね。
まあ、がん患者さんに限らず、一般的に健康的な食事パターンと重なることがほとんどで、「当たり前」と感じる人も多いと思います。
ただ、この当たり前こそ、エビデンスで裏付けられた食事法ということになります。
以上が、米国がん協会の新しいガイドラインでした。
ここで推奨されている食事と身体活動(運動)によって、いくつかの種類のがんサバイバーの転帰(生存率)を改善することが期待されます。
がん食事療法についての注意点
最後に注意点ですが、これは「現時点でのエビデンス」に基づいた推奨ではありますが、すべてのがん患者さん・サバイバーのかたに当てはまるとは限りません。
何度も言いますが、エビデンスがあるからといって、すべての研究結果やそれに基づいた食事のアドバイスが、皆さんにとって100%正解とはかぎりません。エビデンスとは、言ってみれば「平均値」にすぎません。
人間には多様性があります。年齢、性別、体格(身長・体重)、遺伝的特徴、生活習慣、さらに、腸内細菌のパターンなど、ひとりとして同じ人間はいません。
また、がんの種類(部位)・ステージ、治療内容・治療経過などによって、食事の持つ意味は違ってきます。
ですので、誰にでも当てはまる究極の食事療法というのはありません。皆さんひとりひとりが、このガイドラインを参考にして、自分に必要な栄養素を補い、生活の質を高めることにつながる食事をみつけて頂きたいと思います。
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