大豆食品、とくに「みそ汁」などの発酵した大豆食品には、がんのリスクを低下させる効果が報告されています。今回は、大豆食品とがんとの関係についての研究を紹介し、具だくさん味噌汁のパワーをお伝えします。
はじめに
最近、あらためて、和食、なかでも大豆食品の健康効果に注目が集まっています。
とくに、みそ汁は、世界的にも健康的な食べものとして有名で、海外でも結構人気があります。
みそなどの大豆食品には、イソフラボンという生理活性物質が含まれていますが、このイソフラボンには、女性の場合、とくに骨を丈夫にしたり、いろいろな健康効果があることがわかっています。
さらに、大豆食品には、がんのリスクを減らす効果があるという研究報告もみられます。
私の担当させていただいている患者さんで、膵がんの再発があるのですが、食事などのセルフケアでまったくがんが進行しないまま元気で過ごしておられているかたがいます。
その方は、毎朝、野菜をいっぱい入れた具だくさんみそ汁をつくるのがルーティンになっているとのことです。
今回は、大豆食品とがんとの関係について調査しました。
今回の動画の内容です。
1.大豆食品でがんのリスクが減少
2.大豆イソフラボンと乳がんの関係
3.大豆食品ががんを防ぐメカニズム
以上の3つについて、お話します。
1.大豆食品でがんのリスクが減少
大豆食品とがんとの関係についての、大規模な疫学調査の結果を紹介します。
今年の5月に Fronties in Nutrition という雑誌に報告された論文です。
過去に報告された81件の前向きコホート研究(このうち51件はアジアでの研究)を集めて、メタ解析という総合的な評価を行いました。
その結果、大豆を多く摂取するグループでは、すべてのがんの発症リスクが10%減っていたということです。
また、食べる量に関しては、1日に25gの大豆を摂取することで、がんのリスクが4%ずつ低下するとのことでした。
次に、大豆とがんによる死亡リスクとの関係を詳しく調査した研究です。
これも今年の5月に Br J Nutr という雑誌に報告された論文です。
この研究では、28件のメタ解析を集めて、総合的な評価を行った研究です。
結果は、大豆の摂取によって、色々ながんによる死亡リスクが減っており、とくに、胃がんによる死亡リスクが51%、卵巣がんによる死亡リスクが48%、大腸がんによる死亡リスクが41%も低下していたとのことです。
一方で、2020年にBMJに報告された日本人を対象とした大規模な前向き調査では、大豆の摂取とがんのリスクとの間に明らかな相関はなかったとのことですが、納豆などの発酵大豆食品を摂ることが、がんを含めた全ての死因による死亡リスクの低下に関係していたとのことです。
また、日本人を対象とした別の研究では、和食のうち、大豆食品や味噌汁を多く食べている人は、胃がんになっても、死亡リスクがおよそ3割も低下していたということです。
つまり、大豆は、がんを予防するだけでなく、がんになっても長生きする食品であることがわかります。
一方で、9万人以上の日本人を対象とした前向き研究では、大豆食品の摂取、とくに、豆腐類を多く摂取すると、膵臓がんのリスクが増えたということです。
ただ、この研究でも、みそや納豆などの発酵大豆食品では、膵臓がんのリスクは増えなかったとのことです。
2.大豆イソフラボンと乳がんの関係
大豆イソフラボンは、女性ホルモンであるエストロゲンと分子構造が似ていることから、植物性エストロゲンとも呼ばれています。
乳がんの一部は、エストロゲンによって発生したり、成長するために、女性や乳がんの患者さんは大豆をあまり食べない方がいいという意見もあるようですが、これは本当でしょうか?
実際に乳がんの患者さんを対象とした研究を紹介します。
昨年2021年に Cancer Treat Res Commun という雑誌に報告された論文です。
1480人の乳がん患者さんについて、診断前および診断後の大豆の摂取量と、生存率との関係を調査しました。
その結果、診断前に大豆を多く摂取していた患者さんでは、乳がんによる死亡リスクが64%も低下していました。
また、がんの診断後に大豆を多く摂取していた患者さんでは、乳がんによる死亡リスクが51%低下していました。
というわけで、実際には、大豆を食べることで、むしろ乳がんの再発や死亡リスクが低下するとのことです。
また、日本人を対象とした大規模な疫学調査でも、みそ汁の摂取が多いほど、乳がんになりにくいということがわかっています。
というわけで、とくに、大豆を食べると、乳がんになるとか、あるいは、乳がんの予後が悪くなるということはなく、むしろ、がんのリスクを低下させるという研究結果です。
3.大豆食品ががんを防ぐメカニズム
大豆がなぜがんを抑制するのでしょうか?
一つのメカニズムとして、大豆に含まれるイソフラボンのひとつ、ゲニステインによる強力な血管新生を阻害する効果があります。
血管新生とは、新たに血管をつくったり、維持したりするプロセスのことで、がんが大きく育つために、血管新生を活発にして、多くの栄養を得る必要があります。
大豆食品によって、この血管新生が抑えられ、がんの予防や進行阻害につながっていると考えられます。
また、みそなどの発酵大豆食品は、善玉菌(プロバイオティクス)として、腸内細菌を整える作用があります。
ですので、善玉菌のエサとなる食物繊維(プレバイオティクス)が豊富な、根菜類や海藻などを具にすると、さらに腸内環境を整える効果が期待できます。
以上、大豆食品でがんのリスクが低下するというお話でした。
まとめ
味噌汁には、がんリスクを低下させる効果があります。
とくに、具だくさんみそ汁がおすすめです。
具として、
野菜(ネギ、タマネギ、ニラ、ニン二ク、キャベツなど)
イモ類(サツマイモ、サトイモなど)
海藻(ワカメ、あおさ、ひじき、など)
キノコ類(しいたけ、マイタケ、なめたけ)
などをおすすめします。
ただ、塩分が多いとよくないので、すこし薄味の具だくさん味噌汁がおすすめです。
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