新たな分子標的薬(抗がん剤)アダグラシブの臨床試験が報告され、KRAS G12C陽性の転移を認める大腸がんに対するセツキシマブとの併用療法が有望(奏効率46%)という結果でした。
はじめに
今回は、将来的に期待される新薬のお話です。
最近では、「がんゲノム医療」といって、開発されるがんの治療薬(抗がん剤)も、個々のがんの遺伝子異常に応じた分子標的薬が中心となってきました。
そのひとつが、今回紹介する「アダグラシブ」です。
新薬アダグラシブとは?
アダグラシブは、KRAS G12C阻害薬といって、KRAS遺伝子変異のうち、コドン 12 が GGT から TGT へ変異しているがんを標的にした内服薬です。
このKRAS G12Cは、数パーセントと多くはありませんが、肺がんや大腸がんなどの一部の固形腫瘍に認められます。
KRAS G12Cを標的とした分子標的治療薬は他にもあって、ソトラシブという薬がすでに2022年の1月に日本でも肺がんに対して承認されています。
KRAS遺伝子に変異があると、増殖のシグナルが活性化されるのですが、このアダグラシブはKRAS G12Cに結合して、不活性化することで、がんの増殖を抑えるというメカニズムです。
このアダグラシブは、すでに、肺がんに対する臨床試験の結果が昨年2022年の7月にニューイングランドジャーナルオブメディシンに報告されています。
この臨床研究では、KRASG12Cが陽性の切除不能または転移性の肺がんの患者さんをアダグラシブで治療したところ、奏効率(がんが縮小したケース)が43%だったということです。
この結果を受けて、米国のFDAは、昨年の12月に、この薬をKRAS G12C陽性の肺がんに迅速承認しました。
そして今回、大腸がんに対するアダグラシブの臨床試験の結果が報告されました。
大腸がんに対するアダグラシブの効果
2023年1月にニューイングランドジャーナルオブメディシンに報告された論文を紹介します。
薬の安全性と有効性を評価する第1・2 相臨床試験で、対象は、過去に色々な治療を受けた転移がある大腸がん(KRASG12C陽性)の患者さんです。
アダグラシブ単剤療法の群と、アダグラシブに加えて、セツキシマブを併用する群にわけました。このセツキシマブ(商品名はアービタックス)は、RAS遺伝子に変異がない(いわゆる野生型の)大腸がんなどに使われているEGFR阻害薬です。
その結果、単独投与のグループでは、奏効率が19%と、そこまで高くなかったのですが、セツキシマブとの併用群では、奏効率が46%で、奏効期間の中央値が7.6ヶ月でした。
つまり、半数近くの症例でがんが縮小して、半年以上にわたって、その状態を保つことができた、ということです。
これは過去に色々な治療を受けてきた転移性の大腸がんに対する成績としては、有望な結果です。
まとめ
このアダグラシブですが、現在、KRAS G12C陽性の大腸がんに対して、セツキシマブの併用治療を、これまでの標準治療と比較する第3相臨床試験が行われているということです。
今後の報告を待ちたいとは思いますが、おそらく、日本でも将来的には承認されると思います。
KRAS G12Cという一部の特殊な遺伝子変異のタイプをもったがん患者さんにしか使えないという制限はありますが、大腸がんに対する薬物療法の選択肢が広がることが期待されます。
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