「がん家系」という言葉を聞きますが、家族(両親、兄弟・姉妹)にがん患者さんがいると、自分もがんになりやすいのでしょうか?日本人を対象とした、がんの家族歴とがん発症リスクとの関係を調査した大規模な前向き研究の結果を紹介します。
はじめに
がんの原因はとても複雑で、多くの場合、がんのリスクを高めるいくつかの要因が組み合わさっておこります。
以前の動画でもお話しましたが、生活習慣(喫煙、アルコール、食事、運動など)、感染(ウイルスや細菌)、化学物質、紫外線・放射線、慢性炎症やストレス、加齢、偶然のDNA複製エラーなど、様々な因子ががんのリスクを高めるといわれています。
その要因のひとつに、「がんの家族歴」というのがあります。
がんの家族歴とがん発症リスクとの関係は?
例えば、自分の親ががんになることは多いと思います。そんな場合、自分ががんになるリスクは増えるのでしょうか?
もし増えるとしたら、どのくらい増えるのでしょうか?
これについては、日本人を対象として、がんの家族がいる人におけるがんの発症リスクを調査した大規模な研究結果があります。
2020年に、Int J Cancer という雑誌に報告された論文です。
この研究では、40~69歳の日本人男女10万人以上について、親、兄弟、姉妹のうち、少なくとも1人ががんになった「がん家族歴がある」グループと「家族歴がない」グループに分けました。
その後、平均17年以上にわたって追跡調査を行って、がんに罹患するリスクを比較した大規模な前向き研究です。
まずは、種類を問わない、すべてのタイプのがんでの解析では、「がん家族歴がある」グループのほうが、「家族歴がない」グループに比べ、がんになるリスクが11%高いという結果でした。
つまり家族に1人でもがんの人がいると、がんになるリスクが11%増えるという結果でした。ですので、たしかにリスクは増えるのですが、1割程度ですので、そこまで高くないという印象です。
家族歴がある(家族にがんの人がいる)とリスクが高まるがんは?
ただし、がんの種類別にみると、リスクが高くなるものがありました。
がんの種類別の解析では、家族に診断された人がひとりでもいると、発症リスクが高くなる順に、膀胱がん(6.1倍)、膵臓がん(2.6倍)、食道がん(2.1倍)、子宮がん(1.9倍)、肝臓がん(1.7倍)、肺がん(1.5倍)、胃がん(1.4倍)の7種類でした。
つまり、こういったがんの人が家族にいる場合には、同じタイプのがんになるリスクが高くなるということです。
もちろん、がんの家族歴があるからといって、過度に怖れる必要はありません。ただ、自分がリスクが高いということを自覚して、必要な検診を受けることは重要です。
これらのがんのうち、自治体のがん検診でカバーされない種類のがんがあります。そういった場合には、任意型のがん検診(人間ドックやがんドック)も考えていいと思います。
家族性のすい臓がんに注意
とくに注意すべきは、すい臓がん(膵癌)で、症状に乏しく、進行した段階で診断されることが多いため、できるだけ早期に発見することが重要だからです。
じっさいに欧米では、いくつかの医療機関が、すい臓がんの患者さんがいる家族のメンバーをデータベースに登録して、すい臓がんを早期に発見するためのスクリーニング検査を行っています。
しかも、家族にすい臓がんの人が多くなればなるほど、その家族のメンバーのすい臓がんリスクが高くなることがわかっています。
アメリカにおける、すい臓がんの家族歴があるグループの追跡調査では、両親、兄弟姉妹、または子どものうち、1人にすい臓がんがある場合、すい臓がんの発症のリスクは4.6倍ということですが、2人にすい臓がんがある場合は6.4倍、さらに3人の場合には32倍にも増加するという結果でした。
親子または兄弟姉妹に2人以上のすい臓がん患者さんがいる家系の方に発症するすい臓がんのことを、「家族性膵癌」といいます。
日本膵臓学会は、親子、兄弟・姉妹にすい臓がんまたは膵腫瘍の確定診断(手術・生検による組織診断が必要)を受けた人がいる家族を対象として、「家族性膵がん登録制度」をつくっています。
もし、気になる方は、ウェブサイトをご覧ください。
まとめ
家族にがんがいると、自分もがんになりやすいのか?というお話でした。
全体では1割程度ですが、いくつかのがんでは、最大で6倍にもリスクが高まるという結果でした。
リスクが高いと考えられる人は、定期的にがん検診を受けることが重要です。
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