がんと診断された患者さんに、同時に、あるいは時間がたってから新たに発症した別のがんを「重複がん」と言います。今回は、重複がんについて解説します。
はじめに
先日、女子テニス界のレジェンドと呼ばれているマルティナ・ナブラチロワさん(66)に、同時に2つのがんが見つかったというニュースが流れました。
この記事によると、去年11月に首のリンパ節が腫れているのに気づいたナブラチロワさんは検査を受け、咽頭がんと乳がんの診断を受けたそうです。
ただ、幸いにも、どちらもステージ1ということで、来週にもニューヨークで治療を始めるということです。
このニュースで「2つのがん」と聞いて、びっくりされている人もいるかもしれません。
ただ、同じ人の違う部位に、2つ(あるいはそれ以上)のがんが、同時に発見されることは、それほどめずらしいことではありません。
じっさいに、タレントの堀ちえみさんが、2019年に、舌がんに対する手術をうけた直後に食道がんが見つかり、内視鏡による治療を受けました。幸いにもステージ0と非常に早期だったとのことです。
重複癌とは?
このように、がんと診断された患者さんに、同時に、あるいは時間がたってから新たに発症した別のがんを「重複がん」と言います。
重複がんのうち、同じ時期に複数のがんが見つかる場合を「同時性重複がん」、最初のがん治療をしたあとに別のがんが見つかる場合を「異時性重複がん」といいます。
ですから、今回のナブラチロワさんや、堀ちえみさんは、「同時性重複がん」ということになります。
重複がんの頻度は、報告によってバラツキがありますが、全部のがん患者さんの2~17%といわれています。
日本では、がんと診断された患者さんに、健康保険がカバーされる範囲で全身の検査を行うことが一般的ですので、重複がんが見つかりやすいのではないかと思います。
重複がんの多くは、2つのがんですが、3つ、4つのがんが同時に、あるいは時間が経ってから見つかったという症例報告もあります。
では、なぜひとりの人に、いくつものがんが発生するのでしょうか?
重複がんの原因
重複がんの原因としては、遺伝子異常などの素因、ウイルスなどの感染、環境や生活習慣、その他には、最初のがんに対する治療の影響(抗がん剤や放射線治療)などがあります。
なので、原因によっては重複しやすい「がんの組み合わせ」というのがあります。
例えば、最初のがんが乳がんの場合、重複がんとして、卵巣がん、膵臓がんなど、遺伝的素因(例えばBRCA遺伝子の変異)によってリスクが高くなるがんが多いことが報告されています。
ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因と考えられるがん(子宮頸がん、咽頭がん、口腔がん等)も、重複がんとして発生することがあります。
喫煙者で、肺がんと診断された患者さんは、喫煙が原因と考えられているがん(喉頭がん、咽頭がん、口腔がん、食道がんなど)を発症するリスクが高いことが報告されています。
飲酒量が多い人が食道がんにかかった場合、アルコールが原因のがん(口腔がん、咽頭がん、大腸がん、肝臓がん、乳がん)が重複がんとして発生するリスクが高くなります。
最初のがんが消化管(胃がんや大腸がん)の場合は、重複がんとしてやはり消化管のがんが多いことがわかっています。例えば、胃がんと診断された人では大腸がんが発生することが多く、大腸がんと診断された人では胃がんのリスクが高まることが報告されています。
同時性4重複がんの1例
消化管に多発する重複がんについては、69歳の男性にみられた咽頭がん、食道がん、胃がん、直腸がんの同時性4重複がんの報告例があります。
これが実際の患者さんの内視鏡検査の画像ですが、中咽頭、食道、胃、そして、直腸にそれぞれ別のがんがあります。
この男性は、たばこを1日30本を45年間、アルコールはビール700mLまたは日本酒2~3合を50年近く続けていたということです。
ですので、この患者さんでは、おそらく喫煙や飲酒などの習慣が、重複がんを引き起こした原因だと考えられます。
重複がんの予後(生存率)
最後に、重複がんの予後についてですが、海外から報告された研究によると、重複がんを発症した患者のうち、13%は最初のがんが原因で死亡していましたが、55%は2つめ以降のがんが原因で死亡していました。
つまり、がんと診断された人では、最初のがんを克服できたとしても、2番目のがんで死亡するリスクが高くなるということです。
ですから、がんと診断された人では、つねに「重複がん」の可能性を考えておくべきです。
具体的には、がんと診断された人は、全身をくまなく検査して別の臓器にがんがないかをチェックすること、そして、がんの治療を受けた人は、再発をチェックする定期検査だけでなく、とくにリスクの高い重複がんを早期に発見するために必要ながん検診を受けることが重要です。
というわけで、がんが2つ以上発見される「重複がん」についてのお話でした。
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